センサー大手の芝浦電子をめぐり、ミネベアミツミと台湾・国巨(ヤゲオ)の間でTOB(株式公開買い付け)合戦が続いている。同意なきTOBを仕掛けるヤゲオに対し、ミネベアミツミはホワイトナイト(友好的買収者)となる形だ。狙いや背景を貝沼由久会長CEO(最高経営責任者)らに聞いた。
―TOBに名乗りを上げた狙いを改めて
「何より、芝浦電子のサーミスタという製品の品質や技術が非常に優れている。当社の成長戦略である『8本槍戦略』によくフィットするだけでなく、各種技術を『相合(そうごう)』つまり『相(あ)い合わせる』ことで、他の誰よりも大きなシナジーを生むことができると確信した」
―TOBまでの経緯は
「1月中旬に芝浦電子から、第三者から買収提案を受けていることを踏まえた協業の可能性に関し、面談の打診を受けた。シナジーについて意見交換や協議をし、翌週には私もスケジュールを変え、双方の工場も視察した。ヤゲオの提案に対して真摯(しんし)な対抗提案があれば、芝浦電子で真摯な検討が行われると認識し、2月に芝浦電子から完全子会社化の検討要請を受け、その日には意向表明書を提出した」
―即断即決した経緯は
「もともと芝浦電子とは近年、取り引きが始まっていて、その額も飛躍的に伸びている中、製品群の相性やシナジーが高いことは認識していた。加えて、海外資本の傘下になることに、芝浦電子の従業員や取引先から不安視される懸念もあり、われわれ自身、芝浦電子のような卓越した電子部品メーカーが海外資本になり、高度な技術力や事業基盤が毀損(きそん)したり、国外に流出すれば、国益を損なうと危機感を抱いた」
―従来の財務規律を超える投資との指摘も一部である
「従来の原則を基本としながらも、財務規律にこだわりすぎず、収益性を優先事項としていくことをかねて打ち出している。『相合』が期待できることや、適正価格の徹底などを前提に、全社の営業利益率向上に資する『ハイマージン企業』をターゲットにしていくことを表明している。なので、案件ごとに柔軟に対応する。これは今後も同様だ」
―ヤゲオについては
「公表資料で驚いたが、ヤゲオは外為法(外国為替及び外国貿易法)の審査がまだ完了しておらず、経済産業省などによる審査によってはTOB撤回の可能性もあるという。そういうことを膨大な資料の一部に記述しているが、これは株主らに対して真摯な姿勢とは言えない。それを知らずに取引している投資家は少なからずいるだろう。企業文化の違いを感じる」
「それに温度センサーは、ロケットなどにも代表されるように、デュアルユース(軍民両方)での活用がされている物資でもある。経済安全保障上も重要な製品ではないか。国も大手エレクトロニクス企業とは違って、ニッチトップの企業には目が届きにくいかもしれないが、こうした中堅・中小企業の技術にも日本の強みがある」
―近年〝同意なき買収〟が増えている
「所有権という意味では、株式会社は確かに株主のものであり、当社も従業員や取引先などステークホルダーへの責務を果たすことを前提に、企業価値、株主価値の最大化を経営の最優先事項としている。しかし、現実の企業経営は日々、活動する人が有機的に織り合わさったもので、企業価値と株主価値を高めるには〝人〟が重要になる。特に企業買収の局面では人にしかできないPMI(統合作業)が極めて重要で、その意味でも、同意なき買収は得策ではないと私は考える」