ミネベアミツミは4月10日、センサー大手の芝浦電子を友好的TOB(株式公開買い付け)で買収する計画を発表した。芝浦電子については、台湾の部品大手・国巨(ヤゲオ)が同意なきTOBを提案しており、それに対抗する「ホワイトナイト(友好的買収者)」になる形だ。そこには、経済的な判断に加えて、技術の国外流出への危機感があった。
両社などは同日夕方、共同で会見してこれまでの経緯などを語った。ミネベアミツミの貝沼由久会長CEOは会見で、「日本の技術の国外流出を防ぐ」と強調した。
芝浦電子がヤゲオから提案を受けたのは昨年暮れ。だが、取引のあるミネベアミツミを別の協業先候補と見込んで、年明けに打診した。これに対し、ミネベアは「センサーの強化を考えていた矢先。降ってわいた(歓迎するべき)案件」(貝沼氏)と素早く動き、この短期間のうちに買収案をまとめることになったという。
ミネベアミツミのTOB価格は、ヤゲオの提案を上回る1株当たり4500円。23日からTOBを始める。すでに約10%分の大株主の賛同を得ており、買収額は最大で約676億円。TOBが成立すると、芝浦電子は上場廃止となり、ミネベアミツミの子会社となる。
買収巧者として知られる貝沼氏。「直近の営業利益の10倍を基準にしている」と掲げ、貝沼氏がトップになってからだけでも約30件のM&Aを手掛けており、これをテコに会社を大きく成長させている。
だが、今回の買収案の対象となった芝浦電子の直近の営業利益は51億円。同社が投じる予定の670億円超は、従来の「10倍基準」を上回る。
貝沼氏が会見で強調したのは、シナジーへの期待。そして、技術の国外流出への危機感だ。あたかも、同意なきTOBが注目されている昨今。「円安などを考えると、日本の技術、国力を守らないといけない」(貝沼氏)というわけだ。
無論、経営判断が基礎にある。芝浦電子が持つ温度センサー技術には「成長戦略で不可欠なシナジーが期待できる」と判断。そのうえで、技術を守る立場としての打診を受けたことに、経営者として意気に感じたようだ。
実際、今回の計画を開示した直後、貝沼氏は芝浦電子の本社を訪れ、会議室に集まった約100人と、オンライン参加の数百人に、約1時間の熱弁をふるった。「両社のシナジーで新しい技術を開発したい。日本の技術を守りたい」との言葉に拍手が起き、貝沼氏は「胸が熱くなった」という。
今回、投資会社の参画も得て、万一のTOB合戦になった場合の構えも見せた。芝浦電子は、国内外の多数の自動車メーカーと取引があり、世界首位のセンサー技術を持つ。その海外流出を防ぎつつ、事業の成長につなげられるか。貝沼氏の決断の成否も注目される。
(編集委員・山本 晃一)