「A6スポーツバック e―トロン」の風洞実験
デザインと空力性能の両立を追求
細部をミリ単位で調整
ワゴンの「ブレークアウェイエッジ」

 独フォルクスワーゲン(VW)グループのアウディは、新型電気自動車(EV)の「A6スポーツバック e―トロン」で、空気抵抗係数(Cd値)を市販車トップレベルとなる0.21に低減した。航続距離の確保が課題となっているEVでは、特に高速走行時の電力消費を左右する空気抵抗の低減が重要な開発項目の一つとなっている。同社は約2800回のシミュレーションと風洞テストを地道に繰り返し、デザイン性と空力特性の両立につなげた。

 空力の開発では、まずスリムなキャビンと傾斜したルーフラインを持つプロポーションにデザインし、基本特性を高めた。その上で膨大な時間をかけて車両の細部を徹底的に見直し、改善を進めた。同時に開発を進めていた「A6アバント e―トロン2」でも、空力が不利なワゴンタイプのデザインながら同様に努力し、Cd値を0.24まで低減できた。

 空力の開発はアンドレアス・ラウターバッハ氏とマッテオ・ゲルフィ氏が取りまとめを担当。ラウターバッハ氏は「正直なところ、最初は目標値を達成できるかどうか確信が持てなかった。Cd値は最後の1千分の1レべルの改善が最も難しい部分になる」と開発の難しさを述べた。

 ゲルフィ氏は「無数の時間を風洞で過ごし、サーフェス(車体表面)の専門家やデザイナーと協議を重ねた。例えば、フロント周りの空気の流れを改善するためにエアカーテンを使用したが、そのカーテンの吸気口の外側の縁が少し突き出ていて、空気の流れを妨げていた。ミリ単位で調整し、最終的には両方の特性を満足させる妥協点を見出せた」と苦労の一端を語った。

 風を受ける面積を減らすため、空力チームは後輪のトレッド幅を狭めるように要望した。ただ、操縦安定性や外観魅力に影響が大きい部分のため、ここでも全ての妥協点を見出すことに時間を費やした。

 あらゆる部分の細部をミリ単位で見直し、微調整する努力も重ねた。フロントのシングルフレーム下部に設置したスイッチブレード型の冷気取り入れ口では、その周辺の抵抗を最小限に抑えて空気を通過させる工夫によって、Cd値を0.012改善できた。これは航続距離を約12㌔㍍伸ばすことに相当する効果という。

 アバントでは、後部側面下を大きく絞り込む〝ブレークアウェイエッジ〟によって、空気の流れを最適化。こうしたエアロベゼル(空力を改善するための装飾)だけでCd値を0・008改善し、航続距離を8㌔㍍向上させた。

 アンダーフロア(車体の裏側)は、重要なポイントの形状を曲線状にしたり、補強リブやエッジを追加して空気の流れを調整。リアディフューザー(空気の拡散を狙い車体後部下に配置する部品)を含め、流体解析(CFD)を利用して微調整を施し、Cd値を0・002~0・009低減した。車体裏側はリアアクスルを含む大部分をカバーで覆った。

 さらに、高速走行時に強まると安定性悪化の要因になる揚力を抑えながらCd値を改善するため「3Dバンパー」を開発し、空気の流れを整えた。

 ホイールのデザインでも空力にこだわった。以前のホイールの設計要件は強度や安定性を満たせばよかった。しかし、EVの航続距離延伸に向けて〝エアロホイール〟の開発が必須になった。

 Cd値は、1980年代には0.3以下がトップレベルだった。これが解析技術と風洞実験室の設置などによって年々進化。現在はメルセデス・ベンツのEV「EQS」がアウディを若干上回る0.2を実現するなど、高度化している。

 ただ、空気抵抗の低減を優先しすぎると、外観デザインや居住スペースなどに悪影響を及ぼしがち。クルマとしての魅力と実用性を保ちながら、Cd値をはじめとした空力性能をどこまで改善できるのか、自動車メーカー各社の手腕が注目される。