国による充電インフラ補助金の獲得に新車ディーラーが苦戦している。今年度から審査制に移行した上、高速道路や「道の駅」など、整備優先度が高い施設から補助金が配分されるためだ。大手はともかく、予算に制約のある中小ディーラーは工事費を自己負担するなど、審査に通りやすくする工夫が必要だ。もっとも電動車の普及が加速するなか、自動車メーカーによる支援の拡充を含め、自動車業界が率先して充電インフラを普及させる必要もある。
国は「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」として2023年度補正および24年度当初予算で約500億円を確保。このうち急速充電器分は約200億円を手当てした。
また、これまでは先着順で補助金を交付していたが、今回から①施設区分②充電器の出力③出力当たりの補助金申請額(円/㌔㍗)─などを踏まえて交付事業者を選定する方式に切り替えた。施設的には、高速道路や道の駅などに優先配分し、残額を「目的地」や「事務所・工場」などに充てる。さらに出力当たりの申請額が低い充電器から補助金を交付する仕組みだ。今年3月(23年度追加分)、5~6月、8~9月と3回に分けて申請を受け付けている。
このうち、急速充電器で約130億円を配分する5~6月受け付け分の結果(7月末公表分)は、申請1740件中、364件が落選した。審査に通らなかったのはすべて新車ディーラーが該当する「目的地、事務所・工場、共同利用充電拠点」への補助金だった。全拠点への充電器設置を進めているトヨタ自動車系販社も約140件の申請中、半数近くが落選したもようだ。
今回の受け付けでは、目的地や事務所・工場などのうち出力90㌔㍗以上の充電器(「5―A」区分)の場合で1㌔㍗当たり7万87円以上が審査のボーダーラインとなった。50㌔㍗以上90㌔㍗未満の充電器(「5―B」区分)は7万1740円。トヨタ系以外でも落選したディーラーが多かった。施設区分のほか、出力150㌔㍗級といった超高出力充電器への交付が優先された可能性がある。ある自動車メーカーの担当者は「今の基準では(審査に)通らない可能性が高いため、充電器の設置を当面、見送ることにした販売会社が多かった」と語る。
充電インフラの充実度は「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」の補助額を決める基準に用いられる。それだけに自動車業界で設置意欲が高まっていた矢先だったが、充電事業そのものが大きな収益を生み出すわけではないため、様子見の販社もある。
今年度の急速充電器の補助申請期限は9月2日に迫っている。審査に残るには、出力当たりの補助金申請額を抑える必要があるが、補助対象となる充電器は決まっているため、工事費用を企業努力で抑えるなどの工夫が求められる。
審査制の導入は「単に数を増やすだけでなく、(充電空白地など)本当に必要な所に配置できるような制度にしていく」(経済産業省自動車課)のが狙いだ。そういう意味でディーラーからの申請が通りにくいのはやむを得ない側面もある。公的支援に頼らず、自動車業界で着実に充電インフラの整備を進めていく必要もありそうだ。