SUVのEV戦略を見直し(エクスプローラーのEV)
低価格EV投入は商用バンから(E―トランジット)
次代ピックアップトラックは2027年後半に延期(F-150ライトニング)
米国で建設中のブルーオーバルバッテリーパーク

 米フォード・モーターは、電気自動車(EV)をはじめとした電動車の商品戦略を見直すと発表した。2027年に投入予定だった3列シートSUVについてEV化を取り止め、ハイブリッド車(HV)に転換する。次世代EVピックアップトラック「T3」の発売は1年以上延期して27年後半とする。EV関連の投資比率は従来の40%から30%に減らす。その一方で26年以降の新型EVでは新プラットフォームや低価格バッテリーを採用して採算性を確保し、赤字が続くEV事業の黒字転換を目指す。

 同社はEV需要の伸び悩みや、中国メーカーとの競争激化を背景に商品計画を見直す。計画変更は今年4月の発表に続くもの。EVの開発費がかさむ一方で黒字化のめどがつかない状況を省みて、今後のEVを含む新型車では発売12カ月以内に「利払・税引前利益(EBIT)を黒字化することを前提に製品および技術のロードマップと生産体制を再調整する」(ジョン・ローラー最高財務責任者)という方針を打ち出した。

 これに則り、3列シートSUVのEV版は商品化を断念した。計画の見直しで約19億㌦(約2800億円)の特別損失を計上する見通しだ。

 価格競争力に重点を置いた次世代EVの展開は、26年にオハイオ工場で生産を立ち上げる商用バンから開始。同社はすでに米国では「E―トランジット」でEV商用バンのトップシェアを確保している。その販売基盤を生かして、新型EVバンの拡販に弾みをつける。

 22年に立ち上げたEV低価格化プロジェクトが開発した新型プラットフォームは、27年に発売予定の中型ピックアップ車から採用を開始。乗用車と商用車で共用し、さまざまな派生車種の迅速な展開を可能にする。中国メーカーを意識して、グローバルな競争力の実現を目指した。デジタルを生かした個人向けカスタマイズのニーズをにらみ、ソフトウエアの拡充も進める。

 電池の調達計画も見直す。フォードは現在、ポーランドにあるLGエナジーソリューションの工場から「マスタングマッハE」用の電池を調達しているが、25年にその一部をLGエナジーのミシガン工場に移管する。電池を国産化し、インフレ抑制法の税額控除要件に適合させる考えだ。ケンタッキーのSKオンとの合弁工場では同年から「F―150ライトニング」用バッテリーを、ブルーオーバルシティのSKオン合弁工場では同年後半から新型商用バンや次世代ピックアップ車向けの電池生産を始める。

 これらで生産するバッテリーセルを新型EVで共用して、コスト競争力につなげる。また「T3」の発売は、低コストバッテリーの生産開始に合わせて延期したとする。

 低コストなリチウム鉄リン(LFP)バッテリーは、26年にミシガン州のブルーオーバルバッテリーパークで生産開始を予定する。米国自動車メーカーの支援によるLFPバッテリーの生産は初めて。北米で最も低コストなバッテリーセルのひとつになるとみている。

 フォードのジム・ファーリー社長兼最高経営責任者(CEO)は「顧客が何を求め、何を重視しているか、そして世界最高のものとコスト効率の高い設計を一致させるには何が必要かについて多くのことを学んだ」とし、EV事業の黒字化に向けた意欲を述べた。さらに、25年前半には電動化、技術、収益性、および資本要件に関する最新計画を公表するともした。