電動二輪車の普及に向けた動きが広がっている。ホンダは、個人向けに交換式バッテリーに対応した電動二輪車の第1弾を24日に発売する。これまでは法人向けのリースを中心に電動二輪車を展開してきたが、売り切りの販売もスタートして販路を広げる。こうした動きにあわせて、電動二輪車の普及に重要な役割を果たすことになるインフラの整備では、東京23区内や大阪の一部地域などでバッテリー交換ステーションの設置が進んでいる。電動二輪車の普及に向けた環境整備が前進している。

 国内で電動二輪車向けのバッテリー交換ステーションを設置し、バッテリーシェアリングサービスを手がけているのはGachaco(ガチャコ、渡辺一成代表取締役、東京都港区)だ。同社は、ホンダやカワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機の国内の二輪車メーカー4社とENEOS(エネオス)ホールディングスの出資により2022年4月に設立された。電動二輪車を使用するユーザーにとって、充電の待ち時間がなく、バッテリーを交換するだけで誰でも簡単に使えるというメリットを訴求する。

 代表の渡辺氏は、ガチャコへ51%出資するエネオスの出身だ。エネオスとしても燃料販売に代わる新たなビジネスモデルの構築を目指す。現在のサービス利用の主体は電動二輪車向けだが、将来的には建機や蓄電池などでの利用も視野に入れている。「BaaS(バッテリー・アズ・ア・サービス)プラットフォーム」と呼称する電池循環の仕組みの確立も目指している。

 ガチャコのシェアリングサービスは、法人向けにサブスクリプション(定額利用)の形で展開してきた。デリバリサービスを手がけるウーバーイーツジャパン(東京都港区)とは電動二輪車の導入に向けて今年1月末から約2カ月にわたって協業し、運用面でのノウハウを蓄積した。ただ、これまでは法人へのリースが中心で、電動二輪車のラインアップもビジネスユース向けの展開にとどまっていた。

 8月には、ホンダが交換式可搬バッテリー「ホンダモバイルパワーパックe:」に対応した電動二輪車「EM1e:」を24日に発売する。スズキも今年4月から行われた実証を通じて車両開発の知見を蓄え、市販に向けて準備を進めている。こうした二輪車メーカー各社の動向にあわせてガチャコも交換ステーションの設置やサービスの拡充を急ぐ。現在は、東京と大阪を中心に交換ステーションを設けており、24年3月末までには都内に70拠点を整備する計画としている。交換ステーションの立地場所としては、駐車場の隣接地に設けるケースが多いが、今後は個人向けにサービスを広げるため商業施設などの人々が集まるような場所にも設置していくという。

 今年度内にも開始予定の個人向けのサービスについてガチャコの渡辺氏は、「スピード感を持って早期に開始していきたい」と意気込みを示す。個人向けのシェアリングサービスの本格スタートを前に、8月下旬から1カ月間、都内で無料体験サービスを実施する。人数限定で利用希望者を募り、電動スクーターを貸し出す。モニター活動を通じてユーザーニーズを把握し、個人向けサービスの展開に生かしていく。

 個人向けサービスの開始にあたっては料金体系も見直す。現行制度では、走行距離や利用頻度がビジネス利用を想定した設定で、走行距離が短く、利用頻度も少ないと予想される個人向けにはビジネス向けよりも割安な料金設定やプランもそろえる予定だ。

 一方、電動二輪車向けバッテリーシェアリングサービスでは、海外勢が先行しており、その代表格が台湾のGogoro(ゴゴロ)だ。11年に設立された新興企業でありながら、電動スクーターメーカーであるのと同時にバッテリーシェアリングサービスも手がけ、インドや東南アジアでの展開を加速させている。ガチャコも将来的には海外展開を視野に入れている。

 富士経済(菊地弘幸社長、東京都中央区)によると、バッテリーシェアリング市場は40年には1兆1005億円(22年比19・8倍)に達すると予測されている。ガチャコとしてもバッテリーシェアリングサービスの需要開拓を急ぐ。

(織部 泰)