カーボンニュートラル燃料で走行する「BRZ」
大崎次期社長(中央左)、本井監督(中央右)と24時間走り切ったドライバー

 自動車競技「スーパー耐久シリーズ(S耐)」の参戦を通じて人材を育成するスバルの取り組みが2年目に入った。当初は少人数で始まったレース活動だが、回を重ねるたびに参加者は増え、今では若手を中心に150人以上のエンジニアがレースに携わっている。2023年シーズンからは、エンジンや車体だけではなく、運転支援システム「アイサイト」や人工知能(AI)によるデータ解析のエンジニアもチームに本格的に加わった。

 スバルは、2022年からS耐の「ST―Q」に「BRZ」でフル参戦している。ドイツの「ニュルブルクリンク24時間レース」にはモータースポーツ部門を担当するスバルテクニカインターナショナル(STI)が参戦しているが、日本国内で行われるS耐ではスバル技術本部の3~4年目の若手が中心となって車両の開発に当たる。

 スバルがS耐のST―Qに参戦する最大の目的がエンジニアの育成だ。6月に社長に就任する大崎篤専務執行役員は「市販車の開発では見つかった課題を解決して反映するためのサイクルが2年、3年、4年かかるが、レースでは毎回改善を繰り返せる」という。レースだからこそできるアジャイルな開発を通じてエンジニアの技術を磨く。磨いた技術を市販車の開発に生かす。

 昨年フル参戦した成果は上々だ。チームの監督を務める本井雅人スバル研究実験センター長は、「初戦は走らせることで精いっぱいだった。車高を調整したり、キャンバー角をつけたり手段先行でレース車を作っていたためだ」という。ただ、参戦を繰り返す中で、車全体を見る視点を養うなどし、「シーズン後半には指示がなくても一人ひとりが自発的に領域を超えて動けるようになった」(本井センター長)という。

 2年目の今季は、アイサイトやデータ解析でのAI活用にもトライする。アイサイトでは、電光掲示板などに表示される信号を認識しスピードメーターに表示してドライバーを支援する。データ解析はこれまで600項目にもおよぶデータを〝ヒト〟が可視化して事象を解析していたが、瞬時に解析できるアルゴリズムを開発して導入した。より幅広い領域のエンジニアの育成の場としてS耐を活用する。

 技術部門のトップである藤貫哲郎執行役員は「勝ちたいという思いが人を育てる」と話す。ST―QクラスにはBRZの兄弟車であるトヨタ自動車の「GR86」が、スバルと同じカーボンニュートラル燃料を使用して参戦している。トヨタが勝つこともあればスバルが勝つこともあり、競争意識が互いの車両の完成度を高める原動力になっているという。スバルは今後もレースの参戦を通じて技術と人を磨く。

(水鳥 友哉)