開発したキャンピングカー1号機
まずは木製の上物を製作しイメージをつかんだ
キャンピングカーに合わせたIDCを搭載。左の円筒内に窒素ガスが充填されている(写真は2号機)
2台目ではタブレットで拡張やサスペンションの電流値などを設定できる仕組み
部門の垣根を越えたプロジェクト

 ショックアブソーバー大手のカヤバが、キャンピングカーの開発に乗り出した。主力の足回り部品とミキサー車などを手がける特装車事業などの知見を融合。最先端の技術や製品を採用することで、快適性と走行安定性を両立した車両を目指す。アウトドア人気の高まりを受け、キャンピングカーの需要が拡大している。同社はキャンピングカーの事業化の可能性を探っており、今後も商品競争力の向上に取り組む方針だ。

 キャンピングカープロジェクトは、昨年2月に本格始動した。特装車事業とショックアブソーバーを手がける「AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業」、管理部門など部門の垣根を越えた取り組みだ。特に、特装車事業は建設需要によって業績が左右され、将来的には右肩下がりになる見込み。特装車の技術を生かせる新たなビジネスとして、プロジェクトが立ち上がった。

 キャンピングカーの居住空間となる上物は、特装車を手掛ける熊谷工場(埼玉県熊谷市)で、車両に合わせたサスペンション開発や走行試験は開発センター(岐阜県川辺町)などで行っている。車両は2台製作しており、1台目は日野自動車の小型トラック「デュトロ」を、2台目はトヨタ自動車の「ダイナ」がベースとなっている。

 カヤバが目指すのはアウトドアの楽しさを追求しつつ、悪路走行などにも対応できる車両だ。一般的なキャンピングカーは悪路走行を想定しておらず、凹凸(おうとつ)の激しい道路を走行することが難しい。災害時の被災者支援にキャンピングカーを使う動きも出ているが、実際には地震などで隆起した道路を走行できないケースがあったという。こうした課題も、同社の車高調整式のサスペンションなどを用いると走行できる。また、最適な減衰力に調整する電子制御サスペンションを採用すれば、運転する楽しさも付加できるとみている。

 1台目の開発車両には前輪、後輪ともに電子制御式サスペンションの「インテリジェントダンピングコントロール(IDC)」を、2台目は前輪にIDC、後輪に車高調整式サスペンションを搭載。現在、1台目は開発センターで走行試験を実施している。

 IDCは、走行ルートに適した減衰力に制御することで、衝撃を吸収し乗員の快適性を高める。ただ、ショックアブソーバーに減衰力の調整機構を付加するため、標準品に比べて長くなる。一方、商用車の取り付けスペースは乗用車に比べて制約が大きい。このため、ショックアブソーバーの伸縮に必要な窒素ガスのタンクを分離したことで、装着における課題をクリアした。

 また、2台目の後輪に搭載した車高調整式サスペンションは、制御に必要な圧力を蓄えるアキュムレーターをスペアタイヤの搭載スペースに収納するなど工夫を施した。

 上物では、建設機械向け油圧シリンダーなどを手掛ける「HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業」の知見を用いた。停車時に居住空間のルーフと側面を拡張することで、乗員がくつろげるスペースを広げる仕組みとなっている。走行時には格納することで、使い勝手と取り回しの良さの両立を図った。

 ただ、特装車事業でさまざまな上物を扱ってきたカヤバでも、キャンピングカーの居住空間づくりでは課題が少なくなかった。そもそも、「キャンピングカーの空間がどんなものか分からなかった」(特装車両事業部・熊谷工場の勝木潤工場長)ところからのスタートで、まず木製での上物づくりのイメージをつくるところから始めたという。

 さらに、特装車の上物は機能性と耐久性が最優先されるため「外観はあまり重視しない」(同事業部・同工場技術部の田中和徳専任部長)一方、個人客が多いキャンピングカーでは外観も重要なポイントの一つとなる。加えて、使用する素材や接合方法なども異なる。例えば、ミキサー車は鉄板を溶接していくが、キャンピングカーでは断熱素材や繊維強化プラスチック(FRP)などを加工する必要がある。慣れない素材との格闘の末に、1台目を仕上げた。「2台目は隙間などの対応でどんな手法が最適か」(同)を検討しつつ完成度を高めている。

 IDCの電流値調整や車高調整、上物の拡張・格納は、タブレット端末で調整できるようにした。IDCでは乗り心地を「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の3種類を選択できる。サスペンションは、手動で電流値を調整する製品もあるが「初めのうちは調整するが、手動では面倒になるユーザーもいる」(オートモーティブコンポーネンツ事業本部の稲満和隆氏)ことから、タブレットで運転席から容易にコントロールする設計となっている。

 カヤバとして「初めての挑戦」(勝木潤工場長)となるキャンピングカー。まずは車両を製作することで、事業性などを見極める計画。この一環として、13日から幕張メッセ(千葉市美浜区)で開かれる「東京オートサロン」に出展する計画。同社では今回の製作を通じて得た知見をAC、HC事業にも展開することで、本業でも付加価値の高い製品開発につなげる狙いだ。

(藤原 稔里)