無線通信で車載ソフトウエアをアップデートするOTA(オーバー・ジ・エア)に対応する車両が増えてきた。最新の地図データの更新や運転支援機能の追加などを、ディーラーに車両を持ち込まずに行える。OTAは米電気自動車(EV)メーカーのテスラが先行するが、日本の自動車メーカーも従来の新車を中心とした売り切り型のビジネスから、新車販売後、ユーザーに付加価値を提供して収益化を図るリカーリング(循環型)ビジネスへの転換を見据える。一方でサイバーセキュリティー対策やビジネスモデルの確立など課題も少なくない。

 OTAは車のソフトウエアを常に最新の状態に保つのに機能する。用途は地図更新やデジタルメーターの意匠変更のほか、駐車支援や自動車線変更など運転支援機能の追加、リコール対応など幅広い。従来、ソフトウエアの書き換えによる機能向上や不具合の修正はディーラーに車両を持ち込み、専用機器に接続して行う必要があったが、OTAでは時間や場所の制約がなくなる。コストや労力、時間などを考慮すると、自動車メーカーやディーラー、ユーザーにとってメリットは大きく、OTAの普及への期待が高まっている。

 OTAで先行するのはテスラだ。定期的に機能追加やバージョンアップを無償で行っているほか、運転支援機能「FSD(フルセルフドライビング)」をサブスクリプション(定額利用)サービスなどを提供している。

 日本のメーカーもOTA対応を進めている。トヨタ自動車は2021年4月、レクサス「LS」と燃料電池車(FCV)「ミライ」にOTAで車両制御のソフトウエアを更新できる機能を搭載して以降、レクサス「NX」や「ノア/ヴォクシー」など対応車種を広げている。

 ソフトウエアの更新メニューは今のところLSとミライではシステムによる運転操作の挙動や作動条件の変更が中心だが、今後、OTAで展開しようとしているのが安全運転支援システムの機能追加や性能向上だ。どのような機能が追加できるかは現時点で明らかにされていないが、アップデートは無償で提供する予定だ。

 日産自動車はEV「アリア」でOTAに対応した。AI(人工知能)クラウドとも連携し、OTAを活用して音声操作できる機能を拡充する方針だ。

 ホンダは、OTAやコネクテッドサービスのビジネスの収益を30年までに数千億円規模に引き上げるビジョンを描く。すでに「レベル3」の自動運転システムの機能更新や一般車両向けの地図更新サービスを展開しているが、EV専用プラットフォームにOTA対応を想定した電子プラットフォームを組み合わせた「ホンダeアーキテクチャー」を採用したモデルを26年に投入し、OTAを使ったサービスを本格化する方針だ。

 マツダはOTAではないものの、既販車のエンジン性能を向上する制御プログラムの最新化サービス「マツダスピリットアップグレード」を一部車種で展開している。現状はディーラーに車両を持ち込む必要があるが、今後、OTAによる機能向上などに対応するためソフトウエア技術の開発を強化する。

 関連法規の整備も進んでいる。ソフトウエアアップデートで性能変更や機能追加を大規模かつ容易に行うことが可能となったことを踏まえて、政府は道路運送車両法を改正し、20年11月から「自動車の特定改造等の許可制度」を新たに設けた。制度新設の狙いは、自動車の使用過程における適切なソフトウエアアップデートと、サイバーセキュリティーを確保する環境を整備することだ。

 改正法第99条の3で定義する「特定改造等」は、保安基準により規制されるエンジンやハンドル、ブレーキなどの性能を変更するものを指す。つまりは「プログラムが適切でなければ保安基準に適合しなくなる恐れがある」重要なものを許可制の対象とする。ただし、今後の自動車技術の進展に応じ、許可申請の対象を新たに定義することも検討すると見られている。

 サイバーセキュリティーへの対応も不可欠だ。20年6月に、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で、自動車のサイバーセキュリティーとソフトウエアアップデートに関する国際基準(UN規則)が成立した。

 日本では今年7月1日以降に発売される新型車が対象で、自動車の特定改造などの許可制度で定められた「サイバーセキュリティーの確保のための業務管理能力」などが義務化される。自動車メーカーは許可の要件を満たすことや、申請書などに変更事項が生じた場合の国土交通大臣への届出など、遵守事項への対応も求められる。

 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展に伴いソフトウエアが車両の進化を主導する「ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)」が主流となる中、今後は自動車のビジネスモデルも様変わりしそうだ。従来の自動車(ハードウエア)の売り切りビジネスから、OTAなどでソフトウエアを更新し、顧客に付加価値を継続的に提供することで収益を確保するリカーリングビジネスがスタンダードとなる未来も予想される。OTAを利用したリコールの実施も今後は拡大する見通しだ。リコール対策の利便性向上や、自動車メーカーにとってはコスト削減も期待できる。

 一方で、いかに循環型のビジネスモデルを確立するかという課題にも直面している。OTAに対応した車両は現状では少なく、新車販売後の機能追加などを収益化するには時間を要するとの見方も根強い。車が継続的に進化するのであれば新車代替への動機が薄れ、販売台数の減少につながる可能性もある。継続的なアップデートのためのコストやソフトウエア更新に対応する高性能なハードの設計のための負担も発生する。これらのコスト増を吸収し、いかにOTAで新たな価値をユーザーに提供していくのかが問われる。

 トヨタはリモートエアコン操作などのコネクテッド機能の追加を車内決済できるアプリ機能をすでに実現している。こうした機能とOTAを連動させることで新車販売後も収益を得る新たなビジネスにつなげることも可能だ。また、同社が手がけるサブスクリプションサービス「KINTO(キント)によって常に新しいソフトに更新するサービスを提供する可能性もある。

 ホンダは、売り切り型からリカーリング型へとビジネスモデルの転換を目指す方針を示している。青山真二執行役専務は「これまでの当社の顧客は(グローバルで)年間500万人だった。しかし、(OTA対応車を販売してから)10年が経過すれば、年間5千万人を相手に商売できる。新車ビジネスが簡単に拡大しない中、新たなオポチュニティー(好機)になる」とOTAに商機を見い出す。

 IT技術に長けた人材の確保も不可欠だ。特定改造などの許可制度で許可の要件に入っている業務管理能力を満たすために自動車メーカーは体制を強化する必要があり、行政側も技術的な審査を担う自動車技術総合機構で今後想定される許可申請の増加への的確な対応が一層求められる。慢性的な人手不足が続くIT専門家の確保という運用面での課題を解決することも重要になりそうだ。

(永田剛久、平野淳、福井友則、水鳥友哉)