リフレッシュした日産「パオ」と広報部の田中亜以子さん
錆びた部品の補修やランプのレンズを磨いて新車のような輝きを取り戻したリアビュー
「一番大変だった」というガリキズ補修の様子はホームページでも公開中
前のオーナーが張り替えたレザーシートもクリーニング
クリーニング後のレザーシート
サビが出ていた金属製のヒンジ部はサビ落としと塗装で再生した

 ソフト99コーポレーションが取り組む一風変わったPR戦略が話題を呼んでいる。「レトロカー再生の道」と題したプロジェクトで、社員が自社DIY製品を使って往年の名車を補修し、輝きを復活させるというもの。昨年7月にスタートしたプロジェクト第3弾で選んだ車両は、1989年式の日産「パオ」。ノスタルジックなデザインのコンパクトハッチバック車が〝よみがえる〟様子をエンドユーザーに発信し、補修の手軽さと自分で直す楽しさの周知を目指した。

(関西支社・大谷 学)

 この企画は2016年に「99工房」ブランド発足20周年を記念して立ち上げた。これまでにフィアット「パンダ」、プジョー「106」をリフレッシュした。〝レトロカー〟の定義はさまざまだが、長く愛される車の指標を30年以上の車齢で男性、女性を問わず親しまれる車と考え、第3弾ではパオに白羽の矢を立てた。

 パオは、今回のDIY補修に挑戦した広報部係長の田中亜以子さんが選んだ。これまでの2台は輸入車だったが、「プロジェクトをより身近に感じてもらいたい」と国産車にこだわった。

 パオは、「マーチ」をベースに日産自動車が開発した「パイクカー」シリーズの1台。愛らしいスタイルが評判で、いまだに根強い人気を持つ。最近もルーフラックにテントを積んでキャンプに出かけるオーナーがおり、コロナ下で注目されるアウトドアブームでも活躍しているという。人と車のさまざまなかかわりをイメージできることも、車種選定の決め手になった。

 田中さんは普段は洗車をする程度で、この企画に関わるまで車のDIY補修は「初心者レベル」だった。また、実際に車のセルフ補修を行うのは男性が多いため「この企画では、女性目線でDIYの何が難しいのか考えた」という。

 同社は、塗料を中心にキズ直し用品のほか、経年劣化しがちなプラスチックやゴム部品、ランプレンズなどを再生するリペア商品を取り揃えている。扱いやすさを重視して製品化したものも多いので、プロジェクトを通じて「ビギナーでもできる」ことを広める考えだ。

 パオの再生は、前のオーナーが張り替えたとみられるレザーシートやプラスチック部品の清掃・コーティングといった内装リフレッシュからスタート。外装ではボディーの小キズ消しや水垢除去、樹脂やゴムモールのツヤ出しなどに取り組んだ。

 田中さんが特に苦労したのはフロントバンパーのガリキズ補修だった。しかしパテ埋めと下地作り、塗装を徐々にこなし、細部を注視しなければ分からないほどきれいに補修できた。「やり直しの時間はなかった」というプレッシャーの中で完成し達成感を味わった田中さん。「いちユーザーとして『ここまでやれる』と伝えることができたのでは」と自信を見せる。

 今回の企画について、広報部長の国宗建二さんは「乗り続ける中で放置されがちになってしまう愛車を見つめ直してほしい」との思いを明かす。品質、耐久性の向上や先進運転支援システムが普及したことで、自動車の平均車齢は年々伸長する傾向にある。「車を手入れしながら長く乗る価値を伝えることができれば」とDIYを楽しむユーザーの拡大に期待を示す。

 DIY補修では「自分で直せるという達成感を得られることもポイントだ」(国宗さん)という。楽しみながら直すことで、愛車に新たな愛着が生まれることが多い。田中さんも今回、10カ月かけた補修によって愛着が湧いたようで「今後はパオでドライブに出かけたい」と、ペーパードライバー講習に通ったそうだ。

 リフレッシュしたパオをモデルに、SNSでカーライフのスタイルを発信する新プロジェクトもスタートした。インスタグラムに掲載した画像などで、愛車に長く乗り続ける楽しさを感じてもらうのが狙い。アカウント名は、真心を込めてものを大切にするという意味「まてい(真丁)」を採り入れた「くるままていらいふ」。すでにパオでドライブした写真もアップした。カーケア用品販売の枠にとらわれず、愛車と過ごす日常の楽しさを伝えながらより豊かなライフスタイルを提案し、同社のファン拡大につなげていく。