大型車の低炭素化には合成燃料など代替燃料の利用促進も重要

 経済産業省は、石油業界、自動車業界、大学などの有識者で構成する合成燃料研究会の中間とりまとめを公表した。合成燃料は政府が目指す2050年までのカーボンニュートラルを実現する技術の一つとされている。その特徴や課題を整理し、導入拡大に向けた取り組みを提言した。

◆大気中から回収したCO2再利用

 合成燃料は二酸化炭素(CO2)と水素を合成して製造する燃料で、液体合成燃料と気体合成燃料に区別される(図1)。このうちFT(フィッシャー・トロプシュ)合成反応などによって製造されるガソリン、灯油、軽油などの混合物が液体合成燃料に該当する。再生可能エネルギー由来の水素を使う場合はeフューエルという。

 原料である水素を製造する過程でCO2が排出されることのないよう、再生可能エネルギー由来の電力で水電解を行って水素を調達することが基本になる。これは化石燃料からCO2を分離・貯留した水素(ブルー水素)を原料とした場合、化石燃料からCO2を分離した後に、別に回収するCO2と再び合成することになり、製造プロセスとして非効率なためである。

 液体合成燃料は、化石由来のガソリンや軽油などと同様、エネルギー密度が高いという特徴がある。例えば大型車やジェット機が電動化・水素化した場合、液体燃料と同様の距離を移動するには、液体燃料よりも大容量の電池・水素エネルギーが必要になる。電気・水素エネルギーへの代替が困難なモビリティ・製品がある限り、液体燃料は存在し続ける。

 CO2を原料とした合成燃料は、発電所や工場などから排出されたCO2や、将来的には大気中から直接回収されたCO2を再利用することから、脱炭素燃料とみなすことができる。硫黄分や重金属分が少ないという特徴がありクリーンな燃料である。

 自動車は「グリーン成長戦略」で電動化を推進するとされ、「遅くとも30年代半ばまでに乗用車の新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」とされている。ただし、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)は①経済性(イニシャル/ランニングコスト)②運用性(航続距離、充電時間)③インフラ(EVなどの導入に合わせた整備、ビジネス性向上などの課題、特に軽自動車や商用車)といった課題がある。

 国際エネルギー機関(IEA)の17年の分析によると、電動車の割合は30年時点で32%にまで増加する一方、ガソリン車やハイブリッド車などのエンジン搭載車は91%残っている。40年時点でも乗用車販売の84%はエンジン搭載車のため、世界的にカーボンニュートラルを実現するためには、これらに供給する脱炭素燃料が重要になる。

 国土交通省が20年3月にまとめた「大型車の長期的な低炭素化に向けた勉強会におけるとりまとめ」によれば、温室効果ガス排出量削減には電動車の普及は必須としながらも、使用面、コスト面など特有の課題があり、解決には一定程度の期間を要するとされている。こうした課題の解決には、水素や合成燃料などの代替燃料の利用を促進することも重要な対策である。

 自動車分野でカーボンニュートラルを実現する上では、バイオ燃料に加え、合成燃料が電動車が潜在的に抱えている課題を克服する解決策の一つになると考えられる。また自動車燃料として合成燃料を活用するには、内燃機関の技術開発も引き続き必要である。将来的には現在のガソリン、軽油に代わる合成燃料の国際規格についても積極的に関与していく必要がある。

◆既存のインフラや内燃機関活用

 合成燃料は既存のインフラや内燃機関を活用できることから、幅広い関連業種にとり、水素など他の新燃料に比べ導入コストを抑えることが可能で、導入のポテンシャルが高い。特に石油精製業にとっては、国内の石油需要の減少に伴い、精製設備能力の削減や余剰となったタンク、土地、人材などのアセットを生かした新規事業への取り組みを迫られている。既存インフラを活用できる合成燃料の導入は石油精製業にとってもメリットがある。

 レジリエンスの観点からは、合成燃料は積雪により停電が発生した地域への燃料配送の継続、高速道路で立ち往生した自動車に対しても給油できる。また災害対応機能を有するSS(サービスステーション)など既存の燃料供給インフラの活用や、既存タンクを活用した備蓄が可能であるといった特徴がある。エネルギーセキュリティーの観点からは、国内で工業的に大量生産できること、常温常圧で液体であり、水素などに比べ長期備蓄できるといった優位性がある。

 合成燃料の製造法としては、FT合成法が知られているが、効率の向上が課題となっている。一方で、CO2電解、共電解、直接合成(ダイレクトFT)といった、未だ研究開発段階ではあるものの、革新的製造プロセスも存在する。これらの技術の確立によって製造効率の飛躍的な向上が期待される。

 CO2の分離・回収方法は回収源のCO2濃度により異なる(図2)。大気中に存在する濃度の低いCO2の場合、従来技術(アミン系の化学吸収液など)ではコストが高いため、化学吸収・吸着法、膜分離法、深冷法(CO2をドライアイスにして分離)といった技術開発が進んでいる。

◆化石燃料に比べ高い製造コストが課題

 グリーン成長戦略では水素供給コストを化石燃料に対し十分な競争力を有する水準にすることを目指すとしている。再エネや水電解装置のコスト低下に伴い、50年には化石燃料+カーボンリサイクル/CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)で製造する水素よりも安価で製造可能になる地域が出てくる見込みである。加えて、IEAは一部地域では長期的に、再エネ水素が輸出でもコスト競争力を有する可能性を指摘している。このため水電解装置の大型化や装置コストの一層の削減、輸送関連設備の大型化といった供給コストの削減を進めていく。

 水素キャリアは水素社会の在り方を決める重要な論点だが、それぞれ異なる課題がある。現時点でキャリアを絞り込まず、競争を促しつつ技術課題克服を支援する。またキャリアの評価に当たっては輸送(国際輸送)、配送(国内配送)のコストも加味し、総合的に評価することが重要である。

 合成燃料は、現状では化石燃料と比べ製造コストが高い。国内の水素製造コスト、水素輸送コストを踏まえると海外で製造するケースが最もコストを低く抑えられると見込まれる(図3)。なお、将来的に合成燃料のコストは脱炭素燃料であるという環境価値を踏まえていく必要があり、既存燃料と単純に比較することは適当ではない。

 合成燃料のコストを下げるためには、製造効率の向上、CO2の分離・回収コスト、水素の製造・輸送コストの低減が鍵になる。特に、水素コストの低減を待つことなく、製造効率向上などの研究開発を進めることが重要である。

 CO2フリー水素の価格水準を決定するのは再エネなどのCO2フリー電力価格であり、現状、再エネについては国内より海外の方が安く作ることができる。海外の水素を活用する場合は、合成燃料のサプライチェーンをグローバルに見ていく必要がある。水素を日本に輸送する場合、水素キャリアの形態、水素輸送コストについても留意が必要である。他方、余剰電力を用いた国内での合成燃料製造の可能性も検討する必要がある。

◆新たなビジネスチャンスに

 合成燃料の技術開発と実証は欧米を中心に急速に広がりを見せており、わが国産業としても新たなビジネスチャンスとして積極的に取り組む必要がある。学術的観点からの要素技術の研究開発に加え、商用化のための高効率・大規模な製造技術などエンジニアリングの観点から製造技術・体制を早期確立することが必要である。CO2電解、共電解、直接合成といった革新的な製造技術の開発にも、産学官で連携するなどして取り組む必要がある。

 こうした技術開発と実証を今後10年で集中的に行うことで30年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立し、30年代に導入拡大、コスト低減を行い、40年までの自立商用化を目指すべきである。

 合成燃料の導入拡大のためには、脱炭素燃料であるとの国際的評価を確立することや発電所・工場などから排出されるCO2を回収し利用する場合は、CO2削減分のカウントを発電所、工場などと製造側でどのように割り振るべきかといったルールをつくることが重要であり、今後、国際的議論に積極的に参画していく必要がある。また合成燃料の製造場所が海外である場合、海外で回収されたCO2を消費国のCO2削減分としてカウント(オフセット)しなければならない。カーボンクレジット制度を通じてオフセットの枠組みを構築していく必要がある。