PEEKは歯車などのメカ部品で採用が進む
独エボニック社の研究所でのシミュレーションにより材料開発の最適化が可能
モーターの部品にも採用され、テクニカルセンター(兵庫県姫路市)で新たなコンパウンドによる材料を開発中だ

 ダイセル・エボニックは総合化学企業のダイセルと独エボニック社の合弁企業として、今年7月に創業50周年を迎えた。ナイロンをはじめとする機能性樹脂の販売に加え、研究開発拠点のテクニカルセンター(兵庫県姫路市)で製品開発や技術サポートを行うなど顧客のニーズに対応できるのが大きな強みだ。

耐熱性と強度、摺動性、加工の自由度の高さが特長

 車両の軽量化やパワートレーンの高出力化に伴い、静粛性や耐熱性などをキーワードに自動車の開発設計のトレンドが変化する中、これらの課題を解決するために自動車の材料も金属から樹脂への代替が進行している。「耐熱性」と「強度」、「摺動性」に優れ、かつ加工の自由度が高いポリエーテルエーテルケトン樹脂の「PEEK」(ピーク)は現行の金属や他の樹脂にはない高機能樹脂として自動車業界で注目が集まっている。

FRPやカーボンなどとのコンパウンド化が可能で用途が広い

 エボニック社は2006年、「VESTAKEEP(ベスタキープ)」の製品名でPEEKの販売を開始し、日本ではダイセル・エボニックが12年前から販売する。PEEKはFRP(繊維強化プラスチック)やカーボンなどとのコンパウンド化が可能で、金属などの相手材との相性も良いため用途が広く、自動車を中心に航空機や半導体、医療などの幅広い分野で使われている。

ノイズの低減をはじめ、NVHの問題を解決する材料として期待

 軽量化で燃費が向上する一方、ロードノイズなどの弊害により、車室内の静粛性を求める声が高まっている。静粛性を高めることが車両の開発設計で燃費以上に重視される中、PEEKはNVH(騒音・振動・ハーシュネス)の問題を解決する材料として期待されている。伝達効率も高く、摺動部品に適するため、欧州車を中心にノイズの低減や燃費の向上などを目的に、エンジンやトランスミッションなどのメカパーツの材料を金属からPEEKに切り替わる流れが着実に進んでいる。

環境性と耐久性に優れ、メカパーツの脱金属をけん引する高機能樹脂

 また、鉛含有金属の代替をはじめとする脱金属の流れもあり、PEEKのニーズが高まっている。熱可塑性の樹脂のため、環境にも優しい材料でもある。「軽い」、「錆びを防げる」、「音を殺す」に加え、グリスが不要なのが強みであり、機械要素部品の代表である歯車などのメカ部品でも樹脂化が進むと予想される。
 PEEKは過酷な環境に使用され、かつ耐久性が求められるエンジン部品の材料としての採用実績がある。例えば、歯車の材料を金属からPEEKに切り替える際、エボニック社の研究所である「Frimo in Germany」でのシミュレーションにより材料開発の最適化が可能となる。製品の提案に加え、新たな材料開発に生かせる設備があるのも他社にない特徴だ。

EV・HV用のモーターに採用。高出力化にも対応する材料開発へ

 PEEKはメカパーツだけでなく、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)用のモーターにも採用されている。従来のワニスや塩化ビニールなどに替わり、絶縁性や耐熱性に優れ、かつ誘電率を下げる特性を持つPEEKが絶縁部位の新たな材料として用いられる。同社は姫路のテクニカルセンターで、PEEKの誘電率を下げるための新たなコンパウンドによる材料を開発中だ。EVやHVの普及により、モーターの高出力化の問題などに対応するため、電気絶縁部位の特殊な材料開発に注力していく。