日本の自動車メーカーによる乗用車生産は、1950年代前半から欧米の自動車メーカーとの提携による外国車のノックダウン生産が進み、純国産の高級乗用車の量産は55年発売のトヨペット「クラウン」から始まった。このような中で大日本映画製作(大映)は62年7月、自動車業界の産業スパイを題材とした映画「黒の試走車(くろのテストカー)」を公開した。日本初の産業スパイものの映画だった。その作品の中で、物語に欠かせない開発中のスポーツカーの役をトヨペット「クラウン デラックス」が務めた。
【ストーリー】
大手自動車メーカーのタイガー自動車は、社運をかけてスポーツカー「パイオニア」の開発を進めていた。その試走車(擬装したトヨペット「クラウン デラックス」)が、テスト走行中に横転して炎上した。事故の模様は翌日の自動車業界紙に写真入りで掲載され、タイガー社内ではテスト走行の日程が事前に漏れていたことが問題となった。
企画部長の小野田(高松英郎)は、ライバル会社であるヤマト自動車の企画本部長・馬渡(菅井一郎)がマスコミに情報を流したことを知り、部下の朝比奈(田宮二郎)とパイオニアの偽情報をつくってヤマトを混乱させようとした。また、朝比奈は恋人の昌子(叶順子)を、馬渡が常連のバーに潜入させるなど、情報収集を進めた。その結果、ヤマトもスポーツカーを開発中で、タイガーがイタリアのデザイナーに作らせたデザインが盗まれていたことも分かった。
やがてパイオニアは無事に発売され、タイガーはスパイ合戦に競り勝ったように見えた。だが、馬渡が仕掛けた罠がタイガーを苦境へと追い込む。
【解説】
原作は、昭和期のジャーナリスト・流行作家として活躍した梶山季之のベストセラー小説「黒の試走車」。監督は大映の人気映画シリーズを支えた増村保造、主役には前年の映画「悪名」でスター俳優の仲間入りを果たした長身で端正な顔立ちの26歳・田宮二郎を起用し、ヒット作となった。
本作品が製作された時代は、日本のモータリゼーションが花開く直前に当たる。高度経済成長期に入り、自動車メーカー各社の開発競争は激しさを増していく。その中で繰り広げられたスパイ合戦を描くことで、産業スパイ映画という新分野を開拓した。
【車】
トヨペット「クラウン デラックス」RSD型(1955年発売)
クラウン デラックスは、トヨタ自動車が55年12月に販売を開始した高級乗用車。日本初の純国産サルーンとして同年1月に発売したトヨペット「クラウン」の走行性能を向上させるとともに、内外装を充実させたモデル。
クラウンに搭載した直列4気筒1.5リットルOHVエンジンと、コラム式3速マニュアルトランスミッションの組み合わせによるパワートレインは、最高出力を7馬力高めて55馬力とし、最高速度は時速100キロメートルから110キロメートルへと向上。また、内装ではヒーターやラジオ、時計などを標準装備し、外装にはサイドモールやリアフェンダー上へのテールフィンの追加などの加飾などを行い、上質感を高めた。
劇中では黒いシートに包まれた状態での登場となったが、当時の日本の自動車メーカーが社運をかけて独自開発を進める高級車としての設定にふさわしいシルエットを有していた。
【作品データ】
作品名:黒の試走車(テストカー)
製作年:1962年
製作国:日本
上映時間:95分(モノクロ)
配給:大映
ジャンル:ドラマ/サスペンス
【スタッフ&キャスト】
監督:増村保造
出演:田宮二郎、叶順子、船越英二、白井玲子、高松英郎、目黒幸子、菅井一郎、長谷川季子、上田吉二郎
(遠藤 幸宏)




















