アイシンの「Xイン1」

 エンジンに代わる電気自動車(EV)の基幹部品として、電池と双璧をなすeアクスル。モーターと電力を制御するインバーター、減速機という基本構成だが、近年では周辺部品を一体化する「Xイン1化」が開発のトレンドだ。一方で、EVシフトの鈍化や主戦場である中国での価格競争など、eアクスルをめぐる事業環境は不透明感を増す。雪崩を打って参入した部品各社は、設計や生産設備の共通化で収益性を確保しつつ、多機能化や高効率化でしのぎを削る。

 アイシンは、駆動・電力変換・熱マネジメントなどの主要コンポーネントを集約した電動ユニットを「人とくるまのテクノロジー展2025横浜(人テク)」に展示した。27年の開発完了を目指す。9部品の機能を統合した上で、現行EVの該当部分と比べ占有スペースを6割減らし、4割軽くした。筒井洋執行幹部はXイン1化について「技術が進むほど1つになっていく」としつつ「全部を統合するかどうかは、自動車メーカーの車のつくり方の考えによって違う」と説明する。アイシンは統合型、単品のいずれも供給できることが強みだ。

 ジヤトコは前年に引き続き、EV用「3イン1」と、ハイブリッド車(HV)用「5イン1」のeアクスルを披露した。25年度中に量産を始め、日産自動車のEVと第3世代「eパワー」(シリーズ式HV)として供給する。26年度に投入される旗艦ミニバンの新型「エルグランド」にも搭載される見通しだ。

 開発面では着々とXイン1化を進める両社だが、EVシフトの鈍化を踏まえ、生産面では柔軟な構えをとる。アイシンは、既存製品の生産ラインを新増設する際、eアクスルに転用可能な設備を導入して需要変動への耐性を高めている。主要顧客である日産の経営不振でeアクスル戦略に不透明感が漂うジヤトコは、EV向けとHV向けで設計の大半を共通化。量産に備えて4月に立ち上げた富士地区(静岡県富士市)の駆動ユニット専用工場でも、両製品を混流生産できる体制を整える計画だ。

 トヨタ自動車、アイシンと共同出資するブルーイーネクサスでeアクスルを手掛けるメガサプライヤーのデンソー。人テクでは、インバーターケースとトランスアクスルケースを一体化した「eアクスル内蔵インバーター」を出展した。スズキ初のEV「eビターラ」に採用されている。今後も主要部品の共通化を進めてコストを抑え、小型車や軽自動車のEV需要に幅広く応えていく。

 ダイハツ工業系のメタルアートは、同期リラクタンスモーター「SynRM」を搭載したeアクスルユニットを開発中だ。モーターには永久磁石を使用せず、銅線の「集中巻き」という手法でコストを抑えた。軽や小型車のほか、電動二輪車や小型モビリティへの採用を狙う。人テクには、モーターとギアを一体化したユニットを展示した。四輪駆動車の後輪に組み込むための評価試験も始めている。

 eアクスル向け部品の開発も活発だ。独シェフラーは小型化ハウジングを提案する。インバーターやDC/DCコンバーター、BMS(電池管理システム)など、必要な構成部品だけを「レゴブロック」のように組み合わせられる。「X」が4~6部品、納入先によっては8~9部品などと多様化しているニーズを踏まえた。 

 市場拡大が鈍化しているとは言え、特に乗用では「中長期的なEVシフトは進む」との見立てが業界内で主流だ。EV比率が低い日本でも、比亜迪(BYD)が日本の軽市場に参入するなど、局面が変わりそうな兆しもある。一部では消耗戦の様相も呈する中、いかにeアクスルの開発競争に勝ち抜き、EV時代の果実を享受するか、各社の総力戦が続く。

 

 各社が人テクで披露した最新の技術や製品をもとに、次世代技術の動向を探る。