自動車キャビンの新しいデザインや快適性を向上する機能が注目されている。単なる移動のためだった車内空間は、自動運転技術やデジタル技術の進化やライフスタイルの変化で「快適な居住空間」としてのニーズが高まっているためだ。乗員一人ひとりの好みに合わせるパーソナライズ化も進む見通し。21~23日にパシフィコ横浜(横浜市西区)で開催された「人とくるまのテクノロジー展2025」で、未来の車内空間を探った。
東海理化は、表皮やファブリックの質感を生かしつつスッキリした内装を実現する「ヒドゥンライトエフェクト」を開発した。加飾パネルに操作機能を融合、点灯するマークを押すとアクチュエーター(作動器)の振動で、操作感を味わえる。長倉寿典HMIビジネスセンター長は「振動の周波数を分析し、心地よく感じるよう調整した」という。
最新モデルの車内空間は物理的なスイッチをなくして液晶モニターを使ったタッチパネルの採用が増えている。ただ、欧州の自動車アセスメント制度「ユーロNCAP」ではウインカーなどの物理スイッチを評価基準に組み込むなど、物理スイッチ回帰傾向も見られる。東海理化はスイッチを後付けできるデバイスも開発した。「HMIコントローラ」がデバイスを識別することで、好みのデザインや機能、搭載場所を選べる。
ダイキョーニシカワは、自動運転レベル4(限定地域での条件付き完全自動運転)を想定して開発した新しい車室内のユーザーインターフェースを展示した。光を透過するスエード調の材料を開発。液晶ディスプレーを覆うことで、さまざまな情報を透過させ、フラットなダッシュボードに投影できる。タッチパネルのスイッチとしても使えるため、物理的なスイッチをなくしながら、上質でシンプルな車室内空間を実現できるという。
スペースが限られる車内で、デザイン自由度を向上するとともに、環境性能への配慮に取り組んでいるのがトヨタ紡織だ。PVC(ポリ塩化ビニル)表皮を内部のウレタンパッドと一体成形した「モノマテリアルカバーシート」を出展した。実用化に向けて今年度中の開発完了を目指している。
従来のシートカバーは、合成皮革など、複数素材を縫製して製造する。これを単一素材とすることで、容易に解体できる。リサイクル性が高いため、材料使用量の削減にもつながる。PVCは伸びがよく、成形の自由度が高いのも特徴だ。3次元パターンなど自由な造形や質感にでき、シートデザインの幅が広がるという。
コンチネンタルは、今年1月に米国で開催されたデジタル総合見本市「CES2025」で紹介した、車窓に映像を投影する技術を日本で初公開した。車両後部に設置した強力なミニプロジェクターが車窓に高解像度の映像を投影する。クルマでスポーツ観戦やライブ鑑賞に出かける乗員が「推し」のチームやアーティストの映像を投影して「気分を盛り上げる」ことなどを想定する。自身を模したキャラクターの投影や、電気自動車(EV)の充電レベルといった実用的なものも投影できる。商用車の広告にも活用できそうだ。
日本精機は、速度などの車両情報を、フロントウィンドーに拡大表示できる広画角のヘッドアップディスプレー(HUD)を紹介した。HUDの凹面鏡を大型化しながら鮮明に表示できる技術を搭載した。ナビゲーション情報などを前方の路上に重ね合わせる拡張現実(AR)を活用するのに役立つ。フロントガラスに大きく映像を表示するには、内部の凹面鏡を拡大して倍率を上げる必要がある。「その分、表示の歪みが大きくなり、視認性が悪くなる。そうした課題を克服した」(担当者)という。
直感的に操作する技術の開発も進む。日清紡マイクロデバイス(吉岡圭一社長、東京都中央区)は「顔」の動きでディスプレーの操作などができるデモカーを展示した。ディスプレー上部に搭載したセンサーが乗員の「鼻」を認識し、左右や上下に顔を動かすことで、音量やテレビチャンネルなど、インフォテインメントシステムを操作できる。
開発した技術は、安全面でも効果がある。鼻が下向きに一定の幅以上、動いた場合、システム側が「居眠り運転」と判断して警告する。ハンズフリー操作による利便性向上を図るとともに、安全性向上にもつながるとしている。
河西工業は、一体成型で凹凸を抑えたルーフ内装を出展した。室内灯のカバーやスイッチなど、操作する部分については目立たない意匠とし、ジェスチャーでの操作も可能だ。将来の完全自動運転車を想定し、車室内が自宅のリビングになることを視野に、利便性の高い技術や部品の開発が進む。