FIAフォーミュラE世界選手権の「2025東京Eプリ」が5月16~18日の3日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)周辺に設けられた特設コースでダブルヘッダーで開かれた。東京大会2年目を迎えた今年も日産自動車などの日本勢の活躍が期待され、多くのファンが会場に詰め掛けた。電気自動車(EV)によるフォーミュラカーの世界選手権は今年11年目を迎えた。参戦チームはエネルギーマネジメントなど、量産車への応用が見込まれる技術の獲得を目指している。F1(フォーミュラワン)と比べて認知度や発信力に課題を残すものの、レースの魅力や参戦する意義は着実に高まっている。
今回の東京大会は17日に第8戦、18日に第9戦の決勝レースがそれぞれ行われた。主催者によると、ダブルヘッダーにしたのは昨年のチケット売り上げが好調だったことも要因の一つで、今年も多くのレースファンが詰めかけた。
17日は雨天のため、予選が中止となり、決勝もウェット路面でのスタートとなりクラッシュも相次いだ。母国大会となった日産は、オリバー・ローランド選手が2位に入賞し、翌18日は優勝して会場を沸かせた。今年からヤマハ発動機が電動パワートレインを供給するローラ・ヤマハABTチームも18日は5位に食い込み、日本のファンを前に見せ場をつくった。
フォーミュラEは駆動用電池とタイヤがワンメイクなため、エネルギー管理技術が勝負の鍵を握る。同一メーカー製の電池を全チームが使用するため、常に状況が変化するレース中、正確にエネルギー残量を把握するなど、管理してすぐに戦略に反映することが求められる。
参戦1年目のヤマハ発の丸山平二常務執行役員はこれまでの戦いを振り返り「予想していた以上に高度な制御の世界と難しさがあることが見えてきた。開発手法でも『デジタルツイン』が活用され、新しい開発手法をいかに取り入れていくかが重要になる」と電動車開発の難しさを語る。同社は開発手法を含めて、レースで培った技術を、幅広い量産品の開発に生かしていく方針だ。
フォーミュラEはイベント視点ではEVなどのプロモーションにも一役買っている。東京ビッグサイト内には入場無料の「ファンビレッジ」が設置され、協賛企業がEVへの充電やレーシングタイヤの交換、子ども向けに電動カートの試乗などを体験できるコーナーを設けた。欧米市場で成長が鈍化しているEV市場だが、親子連れなどがEVに親しんでいた。
東京大会は2年目の開催が無事終了し、来年以降の継続開催も期待される。今後は一般からの関心度や新たなファンを獲得できるかが課題になりそうだ。
フォーミュラE自体も、今シーズンからレース中の超急速充電が導入されるなど、魅力度向上を図るルールの試行錯誤が続く。レース中継では合成映像による効果や、レース中もダンスミュージックを流して興奮をあおるなど、若者のファン拡大に力を入れる。17日のレース後の表彰式はファンビレッジで開かれ、同時開催していたイベント目当てでレースのチケットを持たない来場者もドライバーらを称えた。こうした既存のレースファン以外との接点を増やすことが、フォーミュラEの持続的な開催につながっていくとみられる。
国内のモータースポーツではF1や世界ラリー選手権(WRC)、二輪車レースの最高峰である「モトGP」を含め、多くの国際選手権が開かれている。しかし、モータースポーツへの関心度はまだまだ限定的だ。フォーミュラEは排出ガスゼロで静粛性の高いEVだからこそ都心部で開かれる。そのユニークさを生かして、ファン層を拡大できるか。来シーズン以降での取り組みが注目される。
【用語解説】フォーミュラE
フォーミュラEは2014年から開催されている。車体やタイヤ、電池などは全車共通。モーターやインバーター、制御ソフトなどパワートレインが競争領域で日産自動車、ヤマハ発動機、ジャガー(ジャガー・ランドローバー)、ポルシェなどが開発する。
現在使用しているマシンは第3世代の改良型で、システム出力は350㌔㍗。停止状態から1.82秒で時速60㍄(約96.5㌔㍍)に達する。来シーズン導入予定の第4世代では出力600㌔㍗まで高められる予定で、タイヤサプライヤ―が現在のハンコックからブリヂストンに変更される。
東京都は誘致活動を経て22年に運営団体と開催協定を結び、24年から東京ビッグサイト周辺の公道を一部封鎖してレースが開かれている。
(中村 俊甫)