リアウイングにTGRロゴを付けて走るハースのF1マシン
国内主要レースで連携効果を生かす
人材育成やデータ解析活用を進めるGR幹部。(左から)佐藤潤GRモータースポーツ事業部GT事業室主幹、加地雅哉TGRグローバルモータースポーツディレクター、高橋智也GRカンパニープレジデント
テレメトリーシステムの活用も検討項目の一つ
レース戦略の組み立てや作戦会議を行う最前線基地「K-MAX」

 2009年の撤退以来、15年ぶりにフォーミュラワン(F1)世界選手権への関与を強めているトヨタ自動車。トヨタ・ガズー・レーシング(TGR)と、ハースF1チームとの業務提携効果を国内のレース活動にも応用する。データ解析技術の共有や組織運営のレベルアップ、ドライバー育成プログラムを若手選手のステップアップ支援に役立てる。7日にはTGRドライバーの平川亮選手がハースのリザーブドライバーに就き、両者の協力関係はより深まった。世界最高峰レースでの取り組みを、国内モータースポーツの活性化にも反映させていく考えだ。

 TGRとハースは24年10月に業務提携した。ドライバーやエンジニア、メカニックを育成する取り組み「ピープル」と、データの解析と活用を学ぶ「パイプライン」を車両開発「プロダクト」に生かす活動方針を掲げている。現在、数人のTGRエンジニアをチームに送り、レギュレーションの範囲内で協力体制を敷いている。

 こうした提携をスーパーフォーミュラ(SF)やスーパーGT(SGT)など国内の主要レースにも生かす。特にパイプライン領域での活用を検討する方針だ。走行中のマシンから各種データを収集してモニタリングする「テレメトリーシステム」はその一つで、電波法など国内の規制を踏まえた上でF1でのノウハウを応用していく。予測技術やシミュレーション技術などの活用も視野に入れる。

 TGRのモータースポーツ活動の現場責任者を務める加地雅哉TGRグローバルモータースポーツディレクターは「データ解析のノウハウは、海外でも日本でも共通して持つべき」と話す。F1やWEC(世界耐久選手権)などで活用する最新技術を国内外の双方向で展開していく。

 組織運営も参考にする。F1チームは世界各国を週単位で転戦するだけに「オペレーションだけでなく、ロジスティクス一つ取ってもしっかりとオーガナイズされている」(加地ディレクター)。効率的で体系付けられたノウハウをSFやSGTにも応用し、国内レース運営の効率化を図る。また、F1ではロジスティクスにおける二酸化炭素排出量の削減なども展開。これらの取り組みを国内レースへのフィードバックも検討し、持続可能なモータースポーツ活動につなげていく。

 業務提携の一環として新設したドライバー育成プロジェクトも活用する。トヨタは独自のレーシングスクール「TGR-DC」を展開しており、ハースと連携したF1挑戦は育成の頂点に位置付けられる。第4戦バーレーングランプリでは、TGR-DC出身の平川選手が練習走行(FP1)に参加した。TGR-DCにはF1にステップアップできる機会があることを示していくことで、育成ドライバーのモチベーションアップに結び付ける。

 国内トップドライバーのさらなる飛躍も後押しする。昨年のSFとSGTでダブルチャンピオンを獲得したTGRドライバーの坪井翔選手には、豊田章男会長が「坪井はそろそろ英語の勉強をしてもらった方がいいんじゃないかな」と、海外参戦に期待を寄せた。加地ディレクターはハースとの育成プロジェクトについて「子どもたちがトヨタのドライバー育成に参加したいと思ってくれたり、現役のドライバーが頂点を目指して頑張るモチベーションになっている」と話す。

 F1を目指すレーシングドライバーはもとより、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を支えるエンジニアとメカニックの育成、そして、国内レースのレベルアップにも寄与するTGRとハースとの連携。トヨタのF1との関わりは今後も大きな注目を集めそうだ。

(編集委員・水町 友洋)