開発した環境対応ブレーキディスク(左がディンプル孔の少ない初期の試作品)
(向かって左から)開発を担当した吉田正志氏、品川グループ長、金網賢氏氏
専用ブレーキパッド

 サンスター技研は、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を低減した鉄製ブレーキディスクとローダストブレーキパッドを開発した。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に対応する環境負荷低減部品として、二輪車向けレース用や小型モビリティ向けの実用化を目指している。

 歯磨きなどのオーラルケア製品で認知度の高いサンスターは、自転車用の部品やパンク修理用ゴムのりで起業した。現在はグループのサンスター技研が生産財事業として二輪車・四輪車向け部品などを手掛けている。

 同社が環境負荷を低減するディスクの開発に本格的に取り組み始めたのは、サンスターが2022年にサステイナビリティー経営を目指すため、環境中長期目標を設定したことがきっかけだ。サンスター技研MC事業部技術営業部の品川佳範設計開発グループ長は、「自動車部品も環境に配慮したものにしなければ生き残れなくなると判断して取り組み始めた」という。

 主力製品である二輪車用のディスク製造時、どの工程が最もCO2を排出しているかを調べた結果、強度を向上するための焼き入れ工程で半分以上を占めていることが明らかになった。このため、熱処理を廃止しながら既存製品と同等の品質や性能を持つディスク開発に着手した。

 二輪車用ディスクは主にステンレスを材料に使っている。熱処理レスにすると強度が弱くなり、クラックが発生しやすくなるのに加え、ディスクブレーキとして使用時に熱変形しやすくなる。まず熱処理レスでも強度を確保できるディスクの材料探しから始めた。ディスクは重要保安部品で高い精度が求められるが、高強度の材料は加工が難しくなる。

 鋼板メーカーの協力も得て、さまざまな材料を使ってテストを繰り返した。この結果、金型を使用しない代わりに、材料をレーザー加工で仕上げ、加工性とブレーキ性能の両面で既存製品と同等の鉄ベースのディスクの開発に成功した。

 ディスクのデザインも見直した。二輪車用ディスクには、放熱効果を高めるため、複数の穴が開けられているが、熱処理レスのディスクの場合、強度に影響する。このため、完全に穴を開けない、ゴルフボールの表面のようなディンプル孔を採用した。当初、「クラック発生リスクがあるため、ディンプル数を最小限にしたが、これだとパッドのクリーニング効果が不足し、ブレーキ性能に影響が生じる」(品川グループ長)ことが判明。台上試験で再現するなどし、ブレーキ性能に影響しないディンプルのレイアウトを仕上げた。

 また、熱処理レスディスクに組み合わせるブレーキパッドによっては、ディスク表面が荒れてしまうケースやパッドが異常摩耗するケースも確認された。このため、同社はパッドを手掛ける東海カーボンの協力も得て、熱処理レスディスクに適した専用パッドも開発した。パッド摩耗量も15%削減したという。ニッケルベースとし、銅フリー化も実現した。

 約2年かけて開発した環境対応ディスクとパッドは、今年7月の「鈴鹿8時間耐久ロードレース」に参戦した「チームスズキCNチャレンジ」のマシンに採用され、8位入賞した。品川グループ長は、「耐久レースを完走しただけでなく、トップ10入りできたことで、高いブレーキ性能を実現した証明にもなった」と自信を示す。

 カーボンニュートラル社会の実現に向けて自動車メーカー各社は、調達する部品の製造時の温室効果ガス削減を要請している。今回開発したディスクは製造時のCO2排出量53%削減を実現した。

 サンスター技研では環境対応ディスクとパッドを「ネイチャーライド」の名称で、まずレース参戦用の二輪車向けに市販する予定だ。

 四輪車向けには四輪バギー車や超小型モビリティー向けでの採用を目指している。鉄ベースのディスクはさびが目立つ可能性があるため、市販用二輪車向けには課題があるという。

 現在、ブレーキ性能に影響せずにさびを防げる表面処理技術を開発中だ。専用パッドについても銅を使用しているバックプレートをホットプレスで接合する技術や、銅メッキを廃止、完全な銅フリー化も検討していく。既存の部品の性能や品質を落とさず、カーボンニュートラルに対応する部品を開発して、事業の拡大を図る。

(野元 政宏)