複数の保険会社の商品を扱う乗合損害保険代理店の保険販売について、金融庁は11月15日、代理店判断による推奨商品販売を禁止する方針を明らかにした。複数社の保険商品の絞り込みはあくまで顧客の意向に沿った販売を行うルールにする。同日行われた、保険業法等の改正案を議論する金融審議会(首相の諮問機関)ワーキンググループ(WG)の4回目会合で同庁が示した。

代理店判断による推奨商品販売が禁止されると、大規模自動車販売店が慣習的に導入している「テリトリー制」が展開できなくなる可能性がある。自動車販売店の保険販売戦略は大きく変更せざるを得なくなりそうだ。

保険業法施行規則(227条の2第3項4号「ハ」)では、代理店都合による商品の絞り込みが事実上認められていた。この「ハ」を削除する方針だ。金融サービス提供法では、保険募集人も含めて顧客に対する誠実義務を課されたが、代理店都合の推奨商品販売は、これに反していると判断された。原則的に代理店の都合で商品を販売することはできなくなる。

これはテリトリー制に大きく影響する。テリトリー制は、自動車販売店などの大規模乗合保険代理店が、損保各社を競わせ、各店舗で取り扱う損保会社を事実上1社に絞る慣習だ。旧ビッグモーター問題ではこの1社に選ばれるため、同社に問題があっても損保各社が便宜供与を競い合い、保険契約者の利益が後回しにされていた。保険業法上、損保が代理店を指導・監督する仕組みになっているのに、それができない要因の一つになっていた。

今回の金融庁方針でテリトリー制が成り立たなくなる可能性がある。この方針についてWGにオブサーバー参加している日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤敏彦会長)の小糸正樹副会長兼専務理事は、現場を重視した対応を求めた。小糸副会長は「大きな制度変更だ。保険の購入者は商品にこだわりがない顧客が多い。現場の実務に大きな影響が出るので、柔軟な運用ができるようにしてもらいたい」と述べた。また「そもそも保険商品がほぼ一緒で差別化できていないことも大きい。損保各社には差別化に力を入れてほしい」とも語った。

金融庁は、年内にも法改正案をまとめ、2025年1月の通常国会に提出する方針だ。

(編集委員・小山田 研慈)