全天候タイヤや冬用、SUV用など高付加価値品の販売拡大に力を入れる(住友ゴム)
EVには負荷を受け止めながら転がり抵抗が低い高インチタイヤが求められる

国内タイヤメーカー4社はプレミアム(高付加価値)タイヤを強化する戦略を取る。コロナ禍後の世界経済の混乱においても、高価格帯タイヤの需要は比較的安定しており、収益を下支えした。欧米の景気後退や紛争などで先が見通せない状況にある中、独自技術を生かした製品やニッチなニーズに応える製品で成長を目指す。

ここ数年、タイヤ各社は世界経済の混乱に翻弄され続けた。コロナ禍による需要の低迷と自動車メーカーの減産、その後のエネルギー価格の上昇、為替変動、海外労務費の増加などが矢継ぎ早に収益を圧迫。中でも海上輸送費の急騰によるダメージは大きかった。これまでにもリーマンショックや原材料価格の高騰、さらに東アジアの新興メーカーの台頭などもあり、販売本数を追いかけるビジネスモデル自体が転換点に差し掛かっていたともいえる。

一方で、高価格帯のプレミアムタイヤはコロナ禍においても需要が比較的安定している。背景の一つに新車装着用タイヤの大径化やインチアップがある。特に数百kgに及ぶバッテリーの搭載により車両重量が増大する電気自動車(EV)には大径ブレーキも必要で、負荷を受け止められる高インチタイヤが求められる。

ブリヂストンは「薄く・丸く・軽く」タイヤを設計する基盤技術「エンライトン」を生かし、特定の性能に振ったタイヤを実現。北米のEVユーザーらのニーズを狙い撃ちする。横浜ゴムも欧州で鍛えたEV用高性能スポーツタイヤで攻勢をかける。

プレミアムタイヤでは、ピックアップトラック用の大口径タイヤといった市場もある。需要地は主に北米だが、近年はオフロード車など趣味性の高い車両が人気だ。これを主戦場とするのがトーヨータイヤで、住友ゴム工業も好調な北米市場向けSUV用タイヤなどで収益力強化に取り組む。

ただ、プレミアム戦略には当然リスクも潜む。欧米の競合メーカーもプレミアムタイヤに力を入れる中、「目の肥えた」ユーザーに、タイムリーに価値を訴求できるかが焦点となる。さらに富裕層向けや趣味の市場と言えど、世界的な景気動向は無視できない。2023年下期は特に欧州の景気低迷により、乗用車用やトラック・バス用の販売が落ち込む。余波が及ぶ可能性は否定できず、予断を許さない。

こうした状況下で、各社は乗用車以外のプレミアム領域にも注力している。ブリヂストンは高い製造技術を生かして鉱山車両用や航空機用タイヤを手がけ、販売後もメンテナンスなどでユーザーの使用時の課題に応えるソリューションビジネスで事業強化に取り組む。横浜ゴムも法人向けビジネスの拡大に向け、スウェーデンの高級農機用タイヤメーカー、トレルボルグ・ホイール・システム(TWS)を2023年に買収。個人ユーザーへの売り切り型ビジネスモデルからの転換を図る。

国内タイヤメーカーは、日本の高いものづくり力と全世界に展開する販売力が各社の戦略を下支えしている。競争激化が想定されるプレミアム市場でも、各社が個性を生かして差別化を図り、ユーザーの心を掴むことができれば、景気動向に左右されない継続的な成長が見込めそうだ。

(中村 俊甫)