充電時間が要らない交換式電池の実証も始まった(写真は伊藤忠商事、いすゞなどによる実証)

 大手運送会社が電気トラック(EVトラック)の導入を本格化し始めた。商用車各社のEVトラックが出そろったことや、政府が大手の荷主や運送会社に「非化石」への転換を義務付けたことが背景にある。ただ、商用車はコストや稼働率が何より重要だ。都市内から都市間へと電動車を広げていけるか、まずは小口配送を担う「ラストワンマイル車両」で実用性が試される。

 ヤマトホールディングス(HD)傘下のヤマト運輸(長尾裕社長、東京都中央区)は2030年までに2万台のEVトラック導入を計画する。日野自動車の「デュトロ Z EV」500台の導入を済ませ、三菱ふそうトラック・バスの「eキャンター」も900台導入する。同社の保有車両は約5万5千台。EVはまだ1千台ほどに過ぎないが、これから導入ペースを上げていく。

 佐川急便(本村正秀社長、京都市南区)も配送用の軽自動車を30年までにEV化する。スタートアップのASF(飯塚裕恭社長、東京都千代田区)と軽EVも開発し、今春から運行を始めている。日本通運(堀切智社長、東京都千代田区)もeキャンター10台を23年内に導入する。

 今年度内にはスズキとダイハツ工業、トヨタ自動車の3社が共同開発した軽商用EV、24年春にはホンダが「N―VAN(エヌバン)」をベースにした軽商用EVを相次ぎ発売する。ラストワンマイル車両の電動化に向けた環境がさらに整うことになる。

 政府は昨年、省エネルギー法を改正し、「非化石エネルギー転換目標」を踏まえた中長期計画の作成と定期報告を大手の輸送事業者や荷主などに義務付けた。罰則はないが、取り組みが不十分と判断された場合は勧告や社名公表などの措置を受ける。経済産業省によると、運送事業者などが持つ車両の電動比率(保有ベース)は3%弱。こうした措置により、30年までに最大積載量8㌧以下の小型商用車は新車販売の電動車比率を最大3割にする計画だ。

 ただ、運送車両はいかに稼働率を落とさないかも大事だ。故障や事故もあるが、電動車の場合は充電時間が新たなハードルになる。

 商用車の技術企画会社、コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、中嶋裕樹社長、東京都文京区)は、軽商用バンや小型EVトラックの走行データを集め、運行管理や効率的な充電スケジュールなどを割り出せるシステムを開発中だ。車両を長時間、停めずに済む交換式電池の実証も伊藤忠商事といすゞ自動車などが始めた。三菱ふそうも今冬から実証に入る予定だ。

 一方、大型車の電動化はまだ手探り段階だ。いすゞの南真介社長は「トラックは荷物を運ぶため、EVだけではカバーできない。特に大きい部分(大型車)は燃料電池となる」と話す。政府の30年目標も、最大積載量8㌧超の大型車は5千台の先行導入を目指すにとどまる。

 まずは大手のラストワンマイル車両から始まった商用車の電動化。今後は、車両の使い勝手を高めつつ、企業数ベースで99%を占める中小・小規模(零細)事業者にどう電動車を普及させていくかという課題が残る。商用各社は金融商品や充電インフラを含めた提案で、何とかEVトラックの需要を掘り起こそうと試行錯誤を重ねる。

(織部 泰)