ATVやSxSはモータースポーツでも人気だ

 不整地を走るオフロード専用車が米国で売れている。日本では馴染みのないモビリティーだが、広大な国土を持つ米国では、農林業などの業務需要やレジャー需要に支えられ、市場規模は年間100万に迫る。ホンダ、カワサキモータースら日本勢も奮闘している。オフロード専用車の世界をのぞいてみた。

 オフロード専用車の大半が公道以外を走り、米国では、州によって自動車のような登録制度がない。このため、年間の販売台数やシェアなどの統計が整っておらず、市場規模やシェアなどは推計に限られる。

 オフロード専用車は大きく2種類に分けられる。1~2人乗りのATV(オール・テレイン・ビークル)は車体にまたがって乗り、二輪車に近いモビリティーだ。一方、座席やステアリングを備える2~6人乗りのSxS(サイド・バイ・サイド)は、四輪車とほぼ同じモビリティーと言える。いずれも農林業や畜産業などの業務用途、不整地を存分に走り回ったり、競技で順位を競ったりするレジャー用途で使われる。

 ヤマハ発動機の推計によると、ATV、SxS(ヤマハ発はレクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークル=ROVと呼ぶ)をすべて合わせた世界需要は2019年に約71万台、20年は92万台、21年は81万台で推移し、北米が8割弱、欧州が2割弱、その他の地域が1割弱を占める。

 ポラリス・インダストリーズをはじめ米国メーカーが強いが、日本メーカーも70年代から市場参入した。ホンダの三輪ATVを皮切りに、ヤマハ発、カワサキが続く。スズキも82年からATVを発売した。各社とも排気量別にラインアップを拡充し、カワサキ、ヤマハ発、ホンダの3社はATVに次いでSxS(ヤマハ発はROV)も手がけるようになった。

 ATVは二輪車のエンジンや部品の多くを共用できる。SxSは四輪車ではあるが、車体の構造上、二輪車の部品を共用しやすい。こうしたことが日本メーカーの新規参入につながった。実際、各社ともATVやSxSの開発部門は二輪車事業の一組織として存在する。ただ、生産は主要市場である米国で行われており、輸出も米国からだ。

 コロナ禍のアウトドアレジャーに支えられ、需要はなお堅調だ。米国では景気後退リスクもささやかれているが、カワサキモータースは「23年度においても一定期間、高い水準で卸売が続く」とし、市場拡大に期待を寄せる。

 一方、こうしたオフロード専用車にも脱炭素の波が押し寄せている。ヤマハ発は、水素エンジンを搭載したROVを試作した。水素エンジンはトヨタ自動車と共同で開発しており、同エンジンを搭載したレクサスブランドのROV(試作車)も東京オートサロンなどで披露している。カワサキも、昨年のスーパー耐久で二輪車用水素エンジンを搭載したSxSをテスト走行した。

 世界的にも市場が限られるオフロード専用車だが、米国市場では今後も手堅い需要が見込める。日本の各社は二輪車事業で培った技術力や販売網を生かし、脱炭素対応を進めるなどしてシェア向上を目指す。

(織部 泰)