浅川フェロー

日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、アルプスアルパインやオムロンなどは2月6日、先進技術を使って視覚障がい者の移動やコミュニケーションを支援する技術を開発する「次世代移動支援技術開発コンソーシアム」を設立したと発表した。コンソーシアムはまず、各社の技術やノウハウを持ち寄り、AI(人工知能)を採用した「AIスーツケース」を開発し、社会実装に向けた実証実験とデモンストレーションを実施していく予定。将来的にはここで培った技術をスマートモビリティや自動運転車椅子などの分野にも応用していく。

コンソーシアムは他に三菱自動車、清水建設も参画。米国カーネギーメロン大学の客員教授で、IBMの浅川智恵子フェローが研究している視覚障がい者向けスーツケース型誘導ロボット「CaBot」が、視覚障がい者が移動しやすい環境につながることに参画した5社が賛同し、コンソーシアムが設立された。

コンソーシアムが開発するAIスーツケースは、位置情報と地図情報から目的地までの最適ルートを探索、音声や触覚を利用して視覚障がい者を目的地に誘導、カメラやセンサーを使って障害物を認識・回避する。また、位置情報やクラウド上の情報を使ってショッピングを支援したり、カメラの顔認識技術を使ってユーザーの知人などを検出してコミュニケーションを支援する。カメラやセンサーで周囲の状況を認識して、行列に並ぶなど、その場に応じた社会的な行動も支援する。

各社の役割はアルプスアルパインが触覚によるユーザーインターフェース、オムロンが顔画像認識や行動予測、清水建設が測位・屋内ナビゲーションや建設機械で培ったロボティクス技術、日本IBMがAIを活用した双方向音声対話やクラウド、行動・環境認識技術、三菱自がモビリティサービスをそれぞれ担当する。アカデミックアドバイザーとしてカーネギー大が視覚障がい者支援技術で協力する。

コンソーシアムでは2020年6月に東京都内の総合商業施設でAIスーツケースの公開実験を行うほか、空港ターミナルやスタジアム、病院・ホテルなどで、施設管理者の賛同を得た上で実証実験のフィールドを広げていく意向だ。これらの実験を通じて社会的な受容性や持続可能なビジネスモデルを検討し、2022年には社会実装構想をまとめ、実用化につなげていく。

また、AIスーツケースの研究開発や実証実験で得た要素技術や知見を、スマートモビリティや自動運転車椅子、AIショッピングカート、サービスロボットに応用して新しいサービスの提供も視野に入れる。

浅川フェローは「視覚障がい者が単独で自由に安心して街を歩くことはできない。これを可能にするのがコンソーシアムの目標」としている。