「未来のモビリティになくてはならない存在になること」と自社の将来像を話す石橋グローバルCEO
カーボンニュートラルや資源循環を念頭に置いた100%樹脂製のコンセプトタイヤ(左)

 ブリヂストンは、電気自動車(EV)によるレース、「フォーミュラE世界選手権」へ2026年からタイヤを単独供給する。人気が再燃しているフォーミュラワン(F1)への供給はかなわなかったが、フォーミュラEへの参戦を通じ、軌道に乗ったプレミアム路線の持続可能性などを世界に発信する狙いがある。

 「グローバルモータースポ―ツ活動を24年メドに再開し、20年後も『走るワクワク』を提供していきたい」。22年夏、30年を見据えた長期戦略の発表会で石橋秀一グローバル最高経営責任者(CEO)はこう宣言した。

 低コストを武器に中韓のタイヤ勢が台頭する中、ブリヂストンは高級車向け高インチタイヤなど、プレミアム製品の製造販売に注力する戦略を明確にする。この戦略に沿わない事業や不採算事業からは相次ぎ手を引き、収益構造にも大なたを振るう。この結果、コロナ禍前後の不透明な経営環境でも業績は底堅く推移し、今期も4兆円超の売上高を見込む。

 世界大手の一角としてモータースポーツとも縁が深い。F1には1997年からタイヤを供給。業界トップを争う仏ミシュランとの競争を勝ち抜き、リーマンショックで撤退する10年までタイヤを単独供給していた。

 実は、ブリヂストンは25年からF1への再供給を目指した。しかし、国際自動車連盟(FIA)は10月に伊ピレリの単独供給継続を発表。フォーミュラレース供給への道は絶たれたと思われた矢先、同じFIAが統括するフォーミュラEへの供給が決まった。

 同社がモータースポーツにタイヤを供給する狙いは、ブランディングと技術開発の両面がある。

 ブランド戦略では、24年にオリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナー契約が期限を迎える。ミシュランや米グッドイヤーがル・マン24時間耐久レースなどで性能の高さをアピールする中、ブリヂストンも自社製タイヤの品質を「実証」する世界的な自動車競技の舞台を必要としていた。

 開発面でも自動車競技は新たな役割を担い始めた。タイヤ業界もカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)や持続可能性を求められ、各社は再生可能資源の活用や廃タイヤのリサイクル技術の確立に取り組んでいる。再生可能資源の活用で、過酷な使用環境にさらされる自動車競技は持続可能な新素材を試す上で格好の場だ。

 ブリヂストンは、サステイナブル原材料を65%使ったタイヤをフォーミュラEに投入することを視野に入れている。また、EVにも適した設計基盤技術「エンライトン」も取り入れる考えだ。トレッド面を薄くするなど、原材料の使用量削減にもつながる技術ブランドで、市販タイヤの性能向上も加速しそうだ。

 ただ、思惑通りに事が進むかどうか不透明な側面もある。例えばフォーミュラEそのものの注目度だ。視聴者は世界で2億人超とされるが、北米での観戦者増も含め、人気が再燃しているF1(15億人超)とは大差がある。メルセデス・ベンツやアウディといった独プレミアムメーカーも過去に参戦したが、F1へ経営資源を集中させようといずれも撤退した。欧米ではEV販売も踊り場にさしかかっており、視聴者が右肩上がりで増える保証はない。ブリヂストンはフォーミュラEなどへタイヤを供給しつつ、次の一手をにらんでいる可能性もある。

 石橋CEOは、自社が目指す将来のブランド像を「1人ひとりの最高を支え続け、未来のモビリティになくてはならない存在になることだ」と語る。快走するプレミアム路線は近い将来、カーボンニュートラルや資源循環といった社会的な要求を高水準で満たすことがブランド維持に不可欠な条件になるだろう。フォーミュラEへのタイヤ供給は、こうした事業環境やモビリティの変化に世界規模で対応するための第一歩だと見ることができそうだ。

(中村 俊甫)