最大の焦点は兼重家の影響力排除

今回の買収が成立すれば、ビッグモーターにも大きなメリットがある。同社が自力再建を断念し「身売り」に舵を切った背景には、決定的な「信用面の棄損」があった。安心感を醸し出せる企業を求めていたため、伊藤忠グループになればイメージアップにつながる。伊藤忠も企業向け事業が中心で、ビッグモーターの買収がマイナスイメージとして既存事業に影響を与えることも少ないとみられる。

ただ、最大の焦点は創業家の影響力排除だ。今回の合意で3社連合とビッグモーターがわざわざ「創業家の影響排除」を条件にしたのは、現時点ではそれが大きな壁になっていることの裏返しだ。

ビッグモーターの全資本は創業家の資産管理会社が持っている。伊藤忠側は、旧ジャニーズ事務所が行ったように、新会社などに優良事業の営業譲渡を受けるイメージをもっている。個人客や元従業員との民事訴訟、損害保険会社への数十億単位の補償など「簿外債務」は兼重家が株を持つ旧会社に残したい考えだ。ただ、兼重家はこの営業譲渡方式に難色を示しているとされる。もし、うまくいかなかった場合は、最終的に3社連合の買収が破談になる可能性もある。

17日のこの件の発表後、ビッグモーター社内では和泉社長の動画が流された。これから資産査定に入ることを説明したものだった。社員からは「決まったわけではないのか」と落胆する声も聞かれたという。

(小山田 研慈)