車を軸とした経済圏づくりが動き始めた

 トヨタファイナンス(西利之社長、名古屋市西区)が地域通貨プラットフォーム「まちいちコイン」を運営する背景には、系列販売会社の経営を地域により密着させるとともに、新たなモビリティサービスへの挑戦を後押しする狙いがある。

 デジタル地域通貨の多くは自治体や地域の金融機関が手掛ける。トヨタが販社に地域通貨の運用を提案する背景には、全国で約2千万台分の保有顧客を持つ〝トヨタ経済圏〟の購買力を地域に還元しつつ、高齢者などの移動制約者を減らすことで、販社の経営基盤である地域経済の活性化につなげる考えがある。

 運営主体となった系列販社は主に新車販売や車検入庫時に地域通貨を発行する。一般的な小売業に比べて高額な商品を扱うため、ポイント付加率を高く設定でき、地域経済への還元の度合いも大きい。自動車から飲食や物販、観光や移動支援へ〝地産地消〟の事業モデルへの道筋が開ける。

 まちいちコインを試験的に導入した広島トヨペット(古谷英明社長、広島市西区)は、5月下旬に開くイベントの来場者にデジタルポイントを発行し、利用者の反応などをうかがう考えだ。

 まちいちコインはまた、複数の運営主体が通貨を発行できる仕組みも持つ。運営原資を拠出する企業を増やし、個社の負担を減らせる。加盟店も増やしやすいため、採算も高めやすい。同社によると、複数の運営主体が地域通貨を発行できる仕組みは全国でも珍しいという。

 「長年の商売を通じて地元には精通しているつもりだったが、自治体やさまざまな企業の人たちと知り合えた」。首都圏でアイシンの「チョイソコ」を始めたトヨタ系販社の首脳はこう語る。必ずしもMaaS(サービスとしてのモビリティ)事業に乗り気ではなかったが、自治体の担当者を始め、地域への熱い思いを持つ経営者やNPO(非営利団体)などとの協業は貴重な体験だったという。畑違いの課題を解決したり、慣れない行政手続きに奔走した社員らの成長にもつながった。

 まちいちコインが連携を予定するチョイソコを手掛ける販社は徐々に増えている。トヨタファイナンスとしては、地域通貨の発行者となる運用主体を年間10社のペースで増やしていく計画だ。

 トヨタの全車種併売から3年が経過し、全国の新車ディーラーは従来の「販売チャンネル」から「地域」へと経営軸をシフトするが「地域の困りごとを解決する新たなサービス」への取り組みは道半ばだ。地域経済圏をテコ入れしつつ、モビリティサービスへの挑戦も販社に促す取り組みの先行きが注目される。