“親子の絆”をどのように描くのか、その場面に車を登場させる映画作品は数多くある。映画「木村家の人びと」は、その一つとなる。父親である主人公が、小学生の息子をホンダ「シビックシャトル」に乗せて、東京から福島の義兄夫婦の元へと送っていく。その親子2人だけの車内の空気、そして車を降り、その車の前で確かめ合う親子の姿などのシーンに、若いファミリー層に人気となった新コンセプトのステーションワゴンの同車を活用している。
加えて、同車の特性もうまく利用した。跳ね上げ式のリアゲートが開いた広い後部の荷室から、主人公は副業としている仕出し弁当を数多く取り出していく。また、当時の小型乗用車としては全高が高く室内が広い車であることを生かし、主人公が運転する同車の前席にスーツ姿の女性、後席には体格の良いサラリーマン2人が乗った状態でのコミカルなやりとりも行われる。さらに、その女性が同車の降車しやすさも示した。
地価や株価が異常な高騰をみせ大金が動いていたバブル経済成長期に、小銭を稼ぐことに執念を燃やして暮らす4人家族の日々の生活を描いた同作品は、ストーリーの展開に車の「走り」ではなく「使い勝手」という面から同車を活用した作品となっている。
【ストーリー】
東京・郊外の住宅地に住む木村家は、サラリーマンの夫・肇(鹿賀丈史)と妻・典子(桃井かおり)、小学生の姉・照美(岩崎ひろみ)と弟・太郎(伊崎充則)の4人家族。一戸建ての家とマイカーのシビックシャトルを持ち、理想的な家族のように見えた。
ある日、福島県で暮らす典子の実兄・雨宮晋一(柄本明)と晋一の妻・小百合(木内みどり)が、トヨタ「コロナマークIIセダン」に典子の母・雨宮ミツ(風見章子)を乗せてやってきた。木村家は、ぼけ老人となったミツをしばらく預かることになる。晋一と小百合は、木村家に宿泊して迎えた翌朝、驚きの光景を目にする。それは、木村家が家族一丸となり、早朝から小銭を稼ぐためのさまざまな仕事に取り組む姿だった。
家族でつくった仕出し弁当を、仕事へと出掛ける通勤客に届けて販売。数多くの老人を使った新聞配達、典子の色っぽいテレフォンサービス、肇が会社まで通勤するマイカーに隣人を乗せていく白タク行為など、さまざまな副業で小銭を稼いでいた。
晋一と小百合は、この稼ぎ方に疑問を持ち始めていた太郎が心配になり、太郎を養子として引き取ろうとする。その後、木村家は小銭稼ぎをいったんは辞めた。だが、再開することとなり、肇はシビックシャトルで太郎を晋一の元へと送っていく。シビックシャトルは、肇と太郎の親子が気付いた絆の力を見届けることになる。
【解説】
映画「木村家の人びと」が劇場公開された1988年は、バブル経済成長期の真っただ中で、世の中は大量生産・大量消費の時代にあった。その時代に小銭を稼ぎ貯め込むことに執着する守銭奴的な生き方は、世間から嘲笑される対象となっていた。
時代の風潮に反し、小銭稼ぎの日々を送る家族の生活をユーモラスに描いたこの作品は、作家である谷俊彦の小説「木村家の人びと」を映画化。同小説で谷は、86年に第4回小説新潮新人賞を受賞していた。メガホンを取った監督の滝田洋二郎は、81年に成人映画で監督デビューした後、一般公開映画を初監督した86年公開のコメディ映画「コミック雑誌なんかいらない!」が高評価を得ていた。
木村家の人びとは、89年の第12回日本アカデミー賞で編集の冨田功が優秀編集賞を受賞した。冨田は日活撮影所で腕を磨き、数々の作品の編集を手掛けて活躍した後に独立した映画の編集技師。映画では83年公開の「みゆき」、85年公開の「台風クラブ」、87年公開の「私をスキーに連れてって」など、テレビでは86年放送開始の「あぶない刑事」の編集を行った実績を持っていた。
出演者では、映画公開当時11歳だった岩崎ひろみと伊嵜充則(当時は伊崎充則)の2人が、スクリーンデビューを果たした。2人ともテレビの子役として活躍していた。
【車】
ホンダ「シビックシャトル」AK型(1983年発売)
「シビックシャトル」は83年10月、ホンダが同年9月に3代目へとフルモデルチェンジした小型乗用車「シビック」(通称:ワンダーシビック)の5ドアステーションワゴンとして発売した。シビックシャトルの名称を用いた車としては初代となる。駆動方式は当初、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)のみの設定で、パワートレインはシビック3ドアハッチバックと同じ、直列4気筒OHCの排気量1.3リットルと1.5リットルのエンジンに、5速マニュアル、ホンダマチック、3速オートマチックの3種類のトランスミッションを設定した。84年11月にはパートタイム4WD車を追加し、85年9月にマイナーチェンジ。劇中車は前期型FF車となる。
シビックシャトルの位置付けは、2代目シビックシリーズに80年1月追加発売したホンダ初のステーションワゴン「シビックカントリー」の後継であったが、シビックカントリーが商用車の5ドアライトバン「シビックバン」をベースに製作したのに対し、シビックシャトルは当初からシビックの5ドアの乗用車として開発。また、シビックシリーズの商用車は、シビックシャトルをベースとした「シビックプロ」が製作された。
シビックシャトルの開発でホンダは、「FFニューコンセプトセダン」をキャッチフレーズに掲げ、2ボックス車の新たな形を目指した。セダン人気が高い中、シビックシャトルは当時の多くの5ドア乗用車よりも背が高い「セミトールワゴン」のボディースタイルを採用し、ホンダ車のRVの先駆けとなった。
全長×全幅×全高は、3990×1645×1490ミリメートル、ホイールベースは2450ミリメートル。3ドアハッチバックよりも一回り大きなサイズで、全高が150ミリメートル高く、荷物も多く載せられることから、若いファミリーが家族で出掛けるのに最適なステーションワゴンであった。後に発売し大ヒットしたコンパクトカー「フィット」と同程度のサイズであり、需要の多いコンパクト2ボックス乗用車のサイズをつくり上げたモデルとも言える。
【作品データ】
作品名:木村家の人びと
製作年:1988年
製作国:日本
上映時間:113分
製作:フジテレビジョン
配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画
ジャンル:コメディ
【スタッフ&キャスト】
監督:滝田洋二郎
脚本:一色伸幸
原作 谷俊彦
企画 村上光一、メリエス
プロデューサー:宮島秀司、河井真也
撮影:志賀葉一
音楽:大野克夫
主題歌:爆風スランプ「きのうのレジスタンス」
編集:冨田功
出演:鹿賀丈史、桃井かおり、伊崎充則、岩崎ひろみ、柄本明、木内みどり、風見章子、小西博之、清水ミチコ、中野慎、加藤嘉
(遠藤 幸宏)


















