映画の劇中の車が走行するシーンには、ドライバーや同乗者の性格を表すだけでなく、車を通じて季節やその場所の状況などを説明するケースがある。映画「波」では、主人公の青年の車として白色の日産「グロリア 4ドアハードトップ」が登場。海に面した景勝地である西伊豆の町を走り、残暑の季節でも過ごしやすく美しい夕景を見ることができる土地であることなどを示した。
過ごしやすさを感じさせるのは、主人公がグロリアの窓を開けて走行するシーンに表されている。高級車らしくフルオートエアコンが装備されているが、主人公はピラーレスのハードトップである同車の前後4枚の窓を全開にして走らせる。日中の強い日差しの中で窓を開け、潮風を感じながら走行する場面が、残暑厳しい中でも涼しさを感じさせる演出となった。
また、劇中に鮮やかな夕景の中を同車で走行するシーンも盛り込まれた。同作品の撮影には西伊豆町が全面協力。西伊豆町から見る夕日は春と秋が最も美しいとされる。ドライバーが同じような状況で西伊豆を走ってみたいと感じ、映画のロケ地を訪ねる聖地巡礼も行える作品となり、地域の活性化に役立った。
【ストーリー】
晩夏の静岡県西伊豆町。伊豆半島西岸の中央部に位置し、駿河湾に面した穏やかで静かな町だ。その町にあるホテルで、3年前に刑務所を出所した若者ケンサク(乾朔太郎)が、昼間は映画館の映写、夜間はホテルのナイトフロントのアルバイトをしていた。彼は毎日、陽が昇る頃にホテルから自宅に帰り、父親かどうかもわからない意識のない寝たきり老人の世話をする。退屈な日々のようだが、1年前の夏には大学生のミカ(紺野千春)と付き合っていた。彼女は毎年夏、親戚の老人が経営するガソリンスタンド(給油所)でアルバイトをしながら趣味の写真を撮るために、東京からやってくる。ケンサクは彼女に未練があったが、彼女にその気はなく、新しい恋人の大学の先輩が来るのを待っていた。
ある日、失恋した若い女性ユカ(小林麻子)が、路線バスで町へとやってきて、ケンサクの務めるホテルに宿泊した。彼は心に傷を負ったユカを、愛車のグロリアで町の名所などに案内し、2人は互いの心の隙間を埋めていった。
やがてユカは、恋人から待ちぼうけをくらわされたミカと偶然出会い、友達になったミカの住まいで暮らすようになる。ユカとミカは彼と3人で遊ぶようになり、彼は3人の間に流れる微妙な空気を感じながらも、夏の終わりを楽しむ日々を過ごし始めた。そこに突然、借金で首が回らなくなった彼の幼馴染のタツ(大森立嗣)が、東京からやってくる。タツは3人の間に入り込み、3人の間柄のバランスが崩れ始める。
【解説】
2001年製作の映画「波」は、奥原浩志監督の作品。奥原監督は、映画監督のほか脚本家、編集技師としても活躍。映画監督としては、1999年製作のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップ作品「タイムレス メロディ」で劇場映画の監督デビューを果たし、同作品は釜山国際映画祭で日本映画初のグランプリを獲得した。奥原監督にとって劇場映画2作目となった波は、平均年齢28.5歳という若いスタッフたちで製作。西伊豆町の海岸や町並みを舞台に、若者の繊細な心の動きが織りなす一夏の恋物語を描いた。波は、第31回ロッテルダム国際映画祭NETPAC賞を受賞した。
主演の乾朔太郎は、映画監督・脚本家として活躍する渡辺謙作の役者名。乾の名を用いた俳優としては、2001年製作の鈴木清順監督作品「ピストルオペラ」にも出演した。波の劇中では、自分の親かどうかわからない寝たきり老人の自宅介護を続ける青年ケンサク役を演じた。ケンサクは老人の死後には家が自分のものになると信じ、毎日変わることなく意識のない寝たきり老人の世話をする。その変化のない日々に突如入り込んできた女性や幼なじみによって揺れる心の動きを好演した。脚本家としての渡辺は、13年製作の映画「舟を編む」で第37回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した。
【車】
日産「グロリア 4ドアハードトップ」Y31型(1987年発売)
日産自動車は1987年6月、姉妹車「セドリック」「グロリア」をフルモデルチェンジした。5ナンバーのボディーサイズを採用した最後のモデルとなる。当時の販売チャンネルである「モーター店」がセドリックを、「プリンス店」がグロリアを販売。8代目モデルとなったグロリアは、4ドアのセダンとハードトップを用意。ステーションワゴンとバンは、先代モデルを継続販売した。
8代目モデルは、ノーズの低いスポーティーなプロポーションの若々しく躍動感のあるスタイリングとしたことが特徴。また、排気量2.0リットルのV型6気筒ツインカム24バルブターボエンジンである新開発VG20DET型エンジンを採用したことも大きな特徴となった。姉妹車セドリックとともに高出力のDOHCエンジンを同シリーズとして初めて搭載し、スポーティーなサスペンションを採用したグレード「グランツーリスモ」も新設定した。従来から設定する豪華装備のグレード「ブロアム」とスポーティーなグランツーリスモが販売の中心となり、新車・中古車ともにセドリックとグロリアの人気をさらに高めた。
劇中車は、87年発売の「グロリア 4ドアハードトップ V20ツインカムターボブロアム」。ピラーレスのハードトップがデザイン性の高さを強調し、高い動力性能を備えたVG20DET型エンジンを搭載。その上に装備を充実させたモデルとなる。80年代後半から90年代初頭の“バブル景気”時代に流行した古い高級車として登場し、主人公の立場や性格を表した。
【作品データ】
作品名:波
製作年:2001年
製作国:日本
上映時間:111分
配給:IndEx Office、リトルモア
ジャンル:恋愛ドラマ
【スタッフ&キャスト】
監督:奥原浩志
脚本:奥原浩志
プロデューサー:福井政文、大森立嗣、渡辺謙作
撮影:三木匡宏
音楽:サンガツ
出演:乾朔太郎(本名:渡辺謙作)、小林麻子、紺野千春、大森立嗣
(遠藤 幸宏)


















