予期せぬ事件に巻き込まれ、仕事もお金も住む場所さえも失った女性のベテラン介護ヘルパー(訪問介護員)の奮闘を描いたのが、2014年に公開された映画「0.5ミリ」だ。社会問題となっていた高齢者介護に焦点を当て、機転が利き前向きに生きる主人公が、高知県内を舞台に高齢者宅への押し掛け介護を続けていく。彼女は、介護の仕事を通じて自らの糧を得るとともに閉ざされていた高齢者の心を開いていく。ヒューマンドラマであり、老人から譲られたいすゞ「117クーペ」で落ち着き先を探すロードムービーでもある作品となっている。
製作当時、国や自治体は、団塊世代のすべてが75歳以上の後期高齢者となる「介護の2025年問題」に備えるため、00年に誕生した介護保険制度を見直す転換期を迎えていた。目指していたのは介護員の人材確保や教育、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けるための地域における支援体制の構築、在宅介護従事者の研修制度の整備など。このような中で12年の「社会福祉士及び介護福祉士法」改正により、医師や看護師以外の介護従事者が一定条件のもとで喀痰(かくたん)吸引などを行えるようになる。映画の冒頭は、主人公がベッドで寝ている高齢の痰を吸引する作業からはじまり、主人公の介護技術が高いことを示した。
【ストーリー】
介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は寝たきり老人の昭三(織本順吉)の介護の仕事を行っていた。ある日、昭三の娘である雪子(木内みどり)から、一晩だけ昭三と添い寝してほしいと頼まれた。断り切れずに依頼を受けた夜、昭三は元気を取り戻して大きな事故を起こし、雪子は自殺していた。
仕事を失ったサワは、電車で移動中、お金の入った荷物を車中に置き忘れてしまった。困り果てた彼女は、介護の仕事が得られそうな老人を見つけては押し掛ける日々を続けることになる。この中でサワは、スーパーの駐輪場で自転車にいたずらをする老人の茂(坂田利夫)を見掛ける。茂は元自動車整備士で、自転車にいたずらをしたり盗んだりして心の憂さを晴らしていた。茂のもとに押し掛けた彼女は、徐々に茂の心に平穏さを取り戻させ、盗んだ自転車は借りてきた軽トラックの1990年式スズキ「キャリイ」に載せて、返して回った。
やがて茂は、40年間大切に保管してきた宝物である117クーペを彼女に見せた。最初は彼女が車に触ろうとすることを許さなかったが、彼女を気に入った彼は、117クーペを彼女に譲ることを決意する。彼の見込み通り、彼女は40年前のマニュアル車を苦もなく操作し、次の居場所探しの旅へと出掛けていった。
【解説】
映画「0.5ミリ」は、監督の安藤桃子自身が執筆した長編小説「0.5ミリ」を映画化した作品で、自身の小説の映画化は2作目となる。安藤桃子が実際に祖母の介護をしていたことから発想を得た上で、第2次世界大戦当時の海軍に在籍していた高齢者から聞いた戦争体験の話などを、作品に盛り込んだ。主演の安藤サクラは実の妹で、ユニークなベテラン俳優の高齢者たちを相手に、奥深い演技を披露した。エグゼクティブプロデューサーは実父の奥田瑛二、フードスタイリストを実母の安藤和津が務めるなど、家族が一体となって制作した作品となった。
撮影は、ほぼ全編にわたって2013年3、4月に、高知県内で行われたとされる。劇中に登場する117クーペは、持ち主が元自動車整備士という設定であるため、しっかりと整備されており、直列4気筒ガソリンエンジンならではの乾いた排気音を奏でながら、高知の空の下で40年前の車とは思えない走りを示した。
【車】
いすゞ「117クーペ」PA90型(1968年発売)
117クーペは1966年、いすゞ自動車がジュネーブショーで発表した小型乗用車。その後、同年の東京モーターショーにも出展。68年に高級パーソナルカーの4人乗り2ドアクーペとして発売した。開発は、人気セダンの「ベレット」より上位のモデルとして進み、イタリア・ギア社のカーデザイナーであったジウジアーロがデザインして、いすゞ車の旗艦モデルとすることを目指した。このデザインのまま量産することは当時の自動車生産技術では難しく、初期型の117クーペは大部分を手作業で生産したとされる。
ラインアップは、直列4気筒ガソリンエンジンの1.6リットル車、1.8リットル車、2.0リットル車のSOHCとDOHC、さらに2.2リットルディーゼルエンジン搭載車もあった。トランスミッションは発売初期は4速マニュアルのみだったが、やがて5速マニュアルに変更され、3速オートマチックも追加された。すべて後輪駆動となる。
劇中車は、初期の1968年に発売された1.6リットルSOHCエンジン搭載の4速マニュアル車。元自動車整備士が40年間大事に宝物として扱ってきた設定のため、白いボディーの美しさはそのままに、物語の中で強い存在感を示す車となった。
【作品データ】
作品名:0.5ミリ
製作年:2013年
製作国:日本
上映時間:196分
配給:彩プロ
ジャンル:ヒューマンドラマ
【スタッフ&キャスト】
監督:安藤桃子
脚本:安藤桃子
原作:安藤桃子「0.5ミリ」
エグゼクティブプロデューサー:奥田瑛二
主題歌:寺尾紗穂「残照」
出演:安藤サクラ、柄本明、坂田利夫、草笛光子、津川雅彦、織本順吉、木内みどり、土屋希望
(遠藤 幸宏)


















