連載「銀幕の名車たち」季節風 × コスモAP 悩める青年に成長の機会を与えた真っ赤な車

  • クルマ文化・モータースポーツ
  • 2026年5月16日 05:00

男性アイドルと女性モデルが共演した映画は数多い。その中で映画「季節風」は、1970年代を代表するアイドル歌手の野口五郎と、トップモデルの宇佐美恵子が共演し、話題となった。野口は主人公の悩める青年を演じるとともに主題歌を歌う。宇佐美は本業と同じ一流モデルの役で登場し、成功の証として赤色のマツダ「コスモAP」を駆る。東洋工業(現マツダ)は革新的な車を発表する際、鮮やかな「赤色」をイメージカラーに採用して登場させてきた歴史がある。その流れの中で登場した高級スペシャルティーカーの赤いコスモAPは、ハンドルを握る華麗な大人の女性の魅力を高めるとともに、青年が成長に向けて新たな一歩を踏み出す機会を与えた。

【ストーリー】

浪人生の高村慎次(野口五郎)は2年連続で大学受験に失敗し、故郷の青森県へと帰ってきた。彼の父はすでに他界し、異母兄弟の兄・高村浩一(新克利)夫婦と暮らしていた。一方、トップモデルとして活躍する20歳代前半の白川圭子(宇佐美恵子)は、CM撮影のために青森県八戸市の種差海岸を訪れていた。

大学受験の再挑戦を勧める兄に反発して家を飛び出した慎次は、撮影を終えて赤色のコスモAPで東京へ帰る途中の圭子と出会う。海岸沿いの道を走るコスモAPの車内で、圭子から一人で運転していくことを聞いた慎次は、一緒に連れていってほしいと頼んだ。東京に着いた慎次は、親しかった先輩・山本健(田中邦衛)のアパートに転がり込む。健は妹で19歳の美紀(大竹しのぶ)と暮らしていたが、失業中で生活は苦しかった。やがてスナックのボーイとして働き始めた慎次は、店でギターの弾き語りを行うようになり、慎次の歌を聞いた圭子から曲作りを頼まれた。

曲が出来上がった日、病魔に侵されていた健が倒れる。故郷の海が見たいと言う健の願いを聞いた慎次と美紀は、健を連れて3人で故郷へと向かった。故郷の地で慎次は、深い悲しみや思わぬ出会いを経験し、自分の進む道を決めていく。

【解説】

大学受験に失敗して落ち込む田舎の青年が、少し年上の美しいモデルと出会ったことをきっかけに、東京で働くことの厳しさや親しかった先輩との死別などを経験し、成長していく姿を描いた。監督はカメラマン出身の斎藤耕一。作品の映像美が高く評価され、70年代には多くの受賞作を送り出している。主役はアイドル歌手の野口五郎、主役が憧れる年上の女性役はモデルの宇佐美恵子、ヒロインには若手女優の大竹しのぶを起用した。

野口は71年に歌手デビューし、70年代に男性アイドル歌手の新御三家の一人として活躍した実力派歌手。映画には主演2回目の作品として3年ぶりに出演し、映画と同名の主題歌「季節風」と挿入歌「感情曲線」を歌った。宇佐美は大学在学中にスカウトされ、資生堂が72年に行った化粧品の春のキャンペーン「赤い花みつけた」でモデルデビューした後、さまざまなCMやファッションショーなどに出演。75年にはマツダの専属モデルとなり新型車「コスモAP」のイメージキャラクターを務めた。大竹しのぶは74年に女優としてデビューし、75年の映画「青春の門」やNHK朝ドラ(朝の連続テレビ小説)への出演を経て国民的ヒロインと称される存在となっていた。

【車】

マツダ「コスモAP」CD型(1975年発売)

初代マツダ「コスモ」の名を冠したロータリーエンジン搭載車第1号「コスモスポーツ」の生産終了から3年後の75年10月、東洋工業はマツダブランドからコスモの名を受け継ぐ2ドアクーペ「コスモAP」を発売した。“AP”はアンチ・ポリューション(公害対策)の略。当時は73年に発生した第1次オイルショックの影響が残り、環境規制も強化される中で、大排気量・高出力のスポーツカーなどの販売が苦戦していた。同社は燃費が悪いとされたロータリーエンジンを改良して高出力と低燃費を両立させ、他社に先駆けて「昭和51年度自動車排出ガス規制」をクリアし、販売台数は発売後半年弱で2万台を超える大ヒット車となった。

発売当初の搭載エンジンは、最高出力135PSの「13B」型(排気量654cc×2ローター)と、「12A」型(同573cc×2ローター、同125PS)の2種類のロータリーエンジンと、「VC」型(同1769cc、同85PS)の直列4気筒SOHCエンジンの計3種類を用意。これらのエンジン性能に加え、ロングノーズでワイド&ローのスタイルや縦ラインのフロントグリル、高級感あふれるインテリアなど、斬新なデザインを5ナンバーサイズに収めたことも高く評価され、ロータリーエンジン搭載車のイメージを復活させた。イメージカラーの赤色(サンライズレッド)をまとったボディーと宇佐美恵子を用いた広告は人気となり、「真っ赤なコスモ」が流行語になるほど、世間の注目を集めた。

【作品データ】

作品名:季節風

製作年:1977年

製作国:日本

上映時間:89分

配給:松竹

ジャンル:青春ドラマ

【スタッフ&キャスト】

監督:斎藤耕一

出演:野口五郎、宇佐美恵子、田中邦衛、大竹しのぶ、加藤治子、新克利、中村敦夫

(遠藤 幸宏)

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