連載「銀幕の名車たち」恋は雨上がりのように × アルト 恋物語の進展を支え続けた軽乗用車

  • クルマ文化・モータースポーツ
  • 2026年6月13日 05:00

CG(コンピューター・グラフィックス)技術の向上やVFX(ビジュアル・エフェクト:視覚効果)技術の進歩などを背景に、人気漫画を実写化した映画作品が次々と誕生している。だが、ヒット作として成功した映画はまだ少ないとされる。このような中で成功した作品の一つとされているのが、テレビアニメ化もされた眉月じゅんの人気漫画を原作とする映画「恋は雨上がりのように」(漫画と同名)だ。17歳の女子高生と45歳のバツイチ男性の恋を描いた作品。成功の要因は、原作のストーリーの再現度の高さやキャスティングの妙にあったとされる。もちろん、主役のイメージを崩さない道具の選択も作品の高評価を支えた。男性の車に選ばれたのは、スズキが1998年に全面改良した軽自動車「アルト」の5ドアのベースグレード。映画公開時には発売から20年近く経った車となるが、日常生活の足代わりとして高い人気を得て親しみやすい軽乗用車の代表格となっていた同車が、主人公の生活感を示すとともに、ストーリーの展開に不可欠な存在として使用された。

【ストーリー】

横浜に住む高校2年生で17歳の橘あきら(小松菜奈)は、陸上部の短距離エースだったが練習中にアキレス腱を負傷し、選手引退を余儀なくされた。心にも傷を負った彼女は、ある日、雨宿りのために入ったファミリーレストランで、店長の中年男性である近藤正己(大泉洋)に優しい対応をされた。それをきっかけに彼女は、そのファミレスでアルバイトを始める。近藤は45歳バツイチで小学校4年生の息子が別れた元妻のもとにいたが、彼女は近藤に対して密かな恋心を抱いていた。やがて、彼女は彼に思いを伝える。だが、彼は28歳もの歳の差であることや、作家を目指して挫折し自信を失っていたこと、彼女には中年男との恋よりも陸上選手への復帰の道があるのではとの考えなどから、その思いには即座に応えることができなかった。それでも彼女は、恋心を膨らませていき、二人の間は縮まっていった。

【解説】

漫画「恋は雨上がりのように」は、眉月じゅんが描いた女子高生とバツイチ中年男性のラブストーリー。漫画雑誌「月刊!スピリッツ」(小学館)で2014年8月号から16年1月号まで連載された後、漫画雑誌「ビッグコミックスピリッツ」(同)に掲載の場が移り、16年から18年まで隔週連載されて全82話で完結した。コミックスは全10巻が発売されている。また、映画公開に先立ち、18年1~3月には、フジテレビなどで全12話のテレビアニメが放送された。実写映画は18年5月に全国304スクリーンで封切られ、上映初週末の動員数は8万6000人、興行収入は1億2000万円を記録し、全国映画動員ランキング4位の好成績を収めた。最終興行収入は7億円を稼ぎ出している。

監督を務めたのはCMディレクターとして活躍していた永井聡(ながい・あきら)。前年の17年には、漫画「帝一の國」の実写映画をヒットさせていた。「恋は雨上がりのように」の撮影では、主人公の橘が街中を疾走するシーンにワイヤーアクションを取り入れて迫力とスピード感のある映像とし、2人が乗るアルトが大型トラックと衝突しそうになるシーンでは、トラックのヘッドライトの明かりで2人の姿をシルエットにして緊張感を高めるなど、さまざまな手法を用いてテンポよく物語を進め、原作の再現性が高く魅力のある映画作品を作り上げた。

また、もう一人の主人公である中年男の近藤の車は、原作の漫画ではスズキ「ワゴンR」に似た架空メーカーの車だったが、実写映画では販売累計台数が多く、人々の生活に親しんでいるアルトが使用された。

【車】

スズキ「アルト」HA12S型式(1998年発売)

アルト(HA12S型)は、1998年10月にフルモデルチェンジした軽ハッチバック車である5代目アルトの水冷直列3気筒SOHC12バルブエンジン搭載車。撮影に使用されたのは5ドア乗用車のベースグレード「Lc」。ドアミラーは未塗装の黒色でリアワイパーは装備されず、室内のリアシートは一体式とシンプルな仕様だったが、日常の足代わりとしての用途が多い生活車として必要十分な装備を備えていた。

このフルモデルチェンジは、98年10月の道路運送車両法施行規則改正による軽の規格改定に合わせて行われた。同社は、アルトを含め4車種6タイプの新規格車を発売。規格改定は衝突安全性の向上を主目的に実施され、排気量は660ccのままだったが、ボディーサイズは全長が100ミリメートル増の3400ミリメートル、全幅は80ミリメートル増の1480ミリメートルに拡大した。

同社は「つよく、やさしく、のりやすく」をキャッチフレーズに、新規格の軽を開発した。この中でアルトは、小型車と同じ安全性を実現しながら、最小回転半径を前モデル(前輪駆動は4.4メートル、四輪駆動は4.6メートル)より少ない4.2メートルに縮小。軽の特徴である経済性や使いやすさを一層向上させ、性能、品質も大幅に高めた。劇中では、軽ならではの乗員同士の距離や軽快な走りなどが、物語の進展にメリハリをつける効果も担った。

【作品データ】

作品名:恋は雨上がりのように

製作年:2018年

製作国:日本

上映時間:111分

配給:東宝

ジャンル:ロマンス/青春

【スタッフ&キャスト】

監督:永井聡

原作:眉月じゅん

出演:小松菜奈、大泉洋、清野菜名、磯村勇斗、葉山奨之、松本穂香、戸次重幸

(遠藤 幸宏)

関連記事