〈試乗記〉話題のホンダEV「スーパーワン」 エンジン車感覚の走りと爽快感 二面性持つ“ホットハッチ”

  • 自動車メーカー, クルマ文化・モータースポーツ
  • 2026年5月4日 05:00

ホンダが5月下旬に発売する小型電気自動車(EV)「スーパーワン」。軽自動車のEVがベースながら最高出力70キロワット(約95馬力)と、軽規格をはみ出した“異端児”だ。乗り味もエンジン車の再現にこだわり、車内にはターボエンジンの音が響き渡る。クルマ好きの記者が、サーキットでの試乗と他社の“ホットハッチ”との乗り比べから、スーパーワンが持つ楽しさと独自性を分析する。

スーパーワンは「N-ONE e:(エヌワンイー)」から車幅を拡大し、足回りも前輪のロアアームやハブ、リアのトーションビームの剛性を上げ、ブレーキも大径化。タイヤも幅広の横浜ゴム「アドバン・フレバ」を装着し、これを専用のブリスターフェンダーに収める。外観はかつて「ブルドッグ」と呼ばれて親しまれた「シティターボII」(1983年発売)の特徴を受け継いでいる。

■ボーズの音響システムでターボエンジン音を再現

試乗の舞台は袖ケ浦フォレストレースウェイ(千葉県袖ケ浦市)だ。まずはホンダのエンジニアの助手席で乗り味を確かめる。スーパーワンには5つのドライブモードがあり、うち4モードはベース車と同様、最高出力は47キロワット(64馬力)だ。EVらしく静かに、滑らかに走っていく。

ところが「ブースト」モードに入ると70キロワットを発揮し、走りも一変する。ターボエンジンの野太い音が車内に響き渡った。エンジンも変速機も搭載していないはずだが、ブレーキを踏むと“エンジン音”が高まり、回転数が上がったように錯覚した。音響システムは米ボーズと共同開発し、大容量サブウーファーまで搭載するこだわりようだ。

運転席に座ると、さらなる“様子のおかしさ”に気づく。EVながらタコメーター(回転計)が表示され、モーターの回生力を調整できるパドルシフトまで備えている。コースに入り、コーナーの侵入では左側のパドルを引いて減速し、ステアリングを切る。出口が見えたらアクセルをベタ踏みし、“シフトアップ”しながら次のコーナーを目指す。“何速”のギアで侵入し、どれくらいステアリングを切れば速く走れるだろうか。ガソリン車の感覚で走りに没頭した。

EVは静粛性が強みである一方、エンジン音がないため速度感に乏しく、人間の感覚とのずれを引き起こす。「EV酔い」という言葉もあるほどだ。人為的な演出だとしても、エンジン音は人とクルマをつなげ、気持ちを高ぶらせる重要なツールであると再確認した。

95馬力の最高出力は“素人”でも使いこなせる点が魅力だ。開発段階ではサーキットで模擬レースも実施し、気温30度を超える環境でも走行できることを確認しているという。バンパーに開けられたシティターボII風のダクトもラジエーターの冷却に効いているという。

■購入意欲をそそられるが…

試乗直後は「これなら欲しい」と思ったが、ふと冷静になって実用性の乏しさが気になった。特にスポーツ系EVにとって公共充電網の乏しさは深刻だ。走行会を楽しむにしても、充電設備が整ったサーキットは多くない。

記者のようなモータースポーツファンにも好まれそうだが、1充電当たりの航続距離274キロメートル(WLTCモード、社内測定値)が障壁となる。東京都庁から富士スピードウェイ(静岡県小山町)までは往復約210キロメートル、モビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)までは往復約300キロメートルあり、経路充電が必須。通勤や近所の外出に使うセカンドカーと考えるのが現実的と言えそうだ。

■ホットハッチ対決は「判定不能」

試乗会の会場までは、トヨタ自動車「GRヤリス」で向かった。日本メーカーにはスーパーワンのような走りに特化したEVはなく、小型ホットハッチという共通点でGRヤリスを選んだ。普段使いと刺激的な走りの「二面性」があるのも同じだ。

ただ、乗ってみると同じ尺度で測るには無理があることを実感した。GRヤリスは高速域でもアクセルを踏めば、最高出力224キロワット(304馬力)、過給圧1.5バールで猛烈に加速していく。駆動方式も四輪駆動とFF(前輪駆動)とでは全く異なり、スーパーワンから比べればモンスターマシンと言える。本格的なサーキット走行ならGRヤリス、日常生活で爽快感を味わうならスーパーワンに軍配が上がりそうだ。

国内市場では軽やSUV、スライドドア付きミニバンなど、実用性を重視した車両が販売台数の上位を占める。そんな状況でも、走行性能にこだわった個性的なモデルが徐々に増えており、クルマ好きとしてうれしい限りだ。スーパーワンの価格は現時点では未発表だが、国の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」(CEV補助金)もあり、ガソリン車並みの実勢価格となることが期待される。

「自分たちの『こんなクルマがあったらいいよね』を集約して生まれた」(開発責任者)。ホンダのエンジニアの夢を具現化した1台を街中で見かけるのが楽しみだ。

(中村 俊甫)

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