連載「銀幕の名車たち」あなたへ × エルグランド ハイウェイスター 亡き妻との思い出をたどる自作のキャンピングカー

  • クルマ文化・モータースポーツ
  • 2026年5月2日 05:00

団塊の世代(1947~49年生まれ)の60歳定年退職が2007年に始まり、退職金を趣味へと投じる高齢者たちが多く現れた。団塊の世代による経済効果は5年ほど続くとされ、その国内情勢の中で映画「あなたへ」は生まれた。モータリゼーションの発展とともに歩んだ団塊の世代が自由な時間を得たことで、ワンボックス車などがベースの「バンコン」タイプのキャンピングカーや室内が広いミニバンなどの需要が拡大。07年には全都道府県に道の駅が整備され、安全に宿泊や仮眠が行える環境の整備が進む中で「第一次車中泊ブーム」も到来した。さらに09年には、高速道路の地方部の休日上限を1000円とする割引制度が導入された。車中泊での長距離旅行が広まる中、走りの良さと空間の広さを併せ持つ日産「エルグランド」の人気は高く、主人公が描く定年後の夫婦旅行に最適な車となるはずだった。

【ストーリー】

富山県の刑務所で受刑者たちに神輿づくりを教える指導技官・倉島英二(高倉健)の元に、亡き妻・洋子(田中裕子)が残した絵手紙が届いた。それは故郷の海への散骨を望む内容だった。さらに洋子から英二への2通目の手紙が、局留め郵便として洋子の故郷である長崎県平戸市の郵便局にあり、受け取り期限が10日後に迫っていることを知る。

英二は退職後に夫婦で旅行しようと作りかけていた日産「ホーミー エルグランド ハイウェイスター」ベースのキャンピングカーを仕上げ、富山から長崎へと向かった。

英二と洋子は、彼女が童謡歌手として刑務所を慰問に訪れたことで知り合い、英二が50歳の時に結婚した。それから15年連れ添ったが、洋子は悪性腫瘍のため53歳の若さで急逝。散骨に対する洋子の真意を測りかねた英二は、キャンピングカーで夫婦の思い出をたどりながら飛騨高山、京都、大阪、下関などを巡り、さまざまな人たちと触れ合う中で洋子の思いに気付いていく。

【解説】

「あなたへ」は、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「駅 STATION」「鉄道員(ぽっぽや)」など、数々の名作を送り出した名監督・降旗康男と名優・高倉健のコンビによるロードムービー仕立ての人間ドラマ。妻の遺言(ゆいごん)である故郷の海への散骨を叶えるべく、自作のキャンピングカーで富山県から長崎県へと向かう男がさまざまな人と出会い、妻の真意に気付いていく姿を描いた。

12年の第36回「モントリオール世界映画祭」に出品され、日本映画としては26年ぶりに、人間性の内面を豊かに表現した作品に与えられる「エキュメニカル審査員賞特別賞」を受賞。また、13年の第36回「日本アカデミー賞」では、大滝秀治が「最優秀助演男優賞」を、余貴美子が「最優秀助演女優賞」を受賞した。同作品は高倉と大滝の遺作となった。

製作当時、葬送における散骨の認知度は低かったものの、海洋散骨の事業者数が増えはじめ、海洋散骨事業者による業界団体誕生の前夜を迎えていた。だが、散骨は近親者と同じ墓に入らないことになるため、故人の希望を叶えずに埋葬する遺族がほとんどであったとされる。

【車】

日産「キャラバン/ホーミー エルグランド ハイウェイスター」E50型(1998年発売)

キャラバン/ホーミー エルグランド ハイウェイスターは1998年1月、日産自動車が初代キャラバン/ホーミー エルグランドの8人乗り中間グレード「V」をベースに、専用のフロントグリルやエアロパーツ、シート地などを装備して、内外装のスポーティー感を高めたエアロバージョンとして発売した。

キャラバン/ホーミー エルグランドは97年5月、国内初のセミキャブオーバータイプの高級ミニバンとして誕生し、キャラバン エルグランドは日産モーター系、ホーミー エルグランドは日産プリンス系のディーラーが販売。両車の違いはフロントグリルのエンブレムの色のみだった。その後、99年8月のマイナーチェンジでは、日産の国内販売系列再編もあり、車名を「エルグランド」に改称した。

劇中車にはホーミー エルグランド ハイウェイスターが使用された。劇中で英二は、日産が「ファーストクラスの移動空間」と表した快適で広々とした室内の空間を最大限に活用し、神輿づくりの腕を生かしてDIYでキャンピングカーを作り上げた。

【作品データ】

作品名:あなたへ

製作年:2012年

製作国:日本

上映時間:111分

配給:東宝

ジャンル:ドラマ/ロードムービー

【スタッフ&キャスト】

監督:降旗康男

出演:高倉健、田中裕子、佐藤浩市、草彅剛、余貴美子、綾瀬はるか、三浦貴大、大滝秀治、長塚京三、原田美枝子、浅野忠信、北野武

(遠藤 幸宏)

関連記事