独化学大手のランクセスは、車載用リン酸鉄(LFP)リチウムイオン電池の正極材向け原料であるリン酸鉄事業に本格参入する。地政学リスクがある中国以外からの調達を検討する先進国の自動車や電池メーカーのニーズに対応するのが狙いだ。このほか、車体の軽量化や電動化を支援する高機能素材や、タイヤ向け添加剤事業も強化する。
このほど日本で説明会を開いて事業方針を説明した。同社は着色用の酸化鉄を長年、手掛けており、LFP電池向けに酸化鉄を供給した実績も持つ。この酸化鉄とリン化合物、リチウム化合物を組み合わせてLFP電池の正極材を製造する。すでにドイツにある工場にリン酸鉄のパイロットプラントを設置し、サンプル出荷を始めている。
車載用リチウムイオン電池の正極材料は、三元系(ニッケル・コバルト・マンガン)とLFP系に大別される。LFP系は三元系よりエネルギー密度が低いものの、安価で燃えにくい特徴を持つ。性能の向上に伴い、電気自動車(EV)への採用が増えているが、今は中国系のシェアが圧倒的に高い。
一方で、米中対立やレアアース(希土類)の輸出規制などで、中国依存度の高い材料や製品の調達リスクが意識され始めている。今後、欧米でLFP電池の量産が本格化する中、同社は〝脱中国〟のニーズに応え、リン酸鉄の量産に参入することにした。
同社製のリン酸鉄を正極材に使うLFP電池は、中国製と比べてコストは高くなる見通しだ。しかし、米国のFEOC(外国懸念企業・団体)要件などで減税対象として認められる上、製造過程での温室効果ガス排出量を減らすなど環境ニーズにも応え、中国製との差別化を図る。