動力伝達を担うベルト、チェーン、ギア(歯車)の製造各社が電動車シフトで新たな商機を狙う。ベルト各社は、電動パワーステアリングシステム(EPS)需要のほか、二輪車や新たなモビリティの動力伝達部品として需要を開拓する考え。ギアは静粛性や耐久性を高めようと加工精度を競う。チェーンは「伝達効率を高めてエネルギーロスを減らし、振動や騒音を抑えていく」(椿本チエインの木村隆利社長)と守りを固める考え。新規や代替需要をめぐり、長い歴史を持つベルトとチェーン、ギアの覇権争いが再び始まりそうだ。

 こうした動力伝達部品は自動車の場合、エンジン内のカムシャフトや補機類の駆動、四輪車の出力配分に用いられる「トランスファー」やデファレンシャルギア(差動装置)、二輪の車輪駆動などに用いられる。ベルトは静粛性に優れる半面、耐久性や同期性でチェーンに劣る。ギアは耐久性に優れ、超高回転域でも正確に同期する半面、メカニカルノイズが出たり、コストがかさんだりする。自動車や部品各社は、求められる仕様や性能に応じて使い分けている。

 ベルトの新たな商機が、油圧に代わるEPS向けだ。ステアリングアシスト機構は近年、より車輪に近い「ラック(棒状歯車)式」の中でも、モーター同軸式からパラレル(並行式)に移行しつつある。ベルトはモーターの駆動力をラック軸に伝える。

 三ツ星ベルトの池田浩社長は、「高級車向けで採用が拡大しており、海外のメガサプライヤーからの引き合いが強い。高級車では走行安定性や操舵性向上のため、EPSでの採用に伴い、ギアなど既存部品の置き換えとして、後輪にもベルトが使われるようになってきた」と話す。来年にも四国工場(香川県さぬき市)とタイの製造拠点「スターズ・テクノロジーズ・インダストリアル」(ラヨーン県)で新ラインを立ち上げ、生産能力を2倍に高める。

 産業用ベルトのニッタと米ゲイツ社との合弁会社、ゲイツ・ユニッタ・アジア(GUA)も同様で、EPS向けは日系・海外メーカー問わず採用が進んでいるという。ただ、萩原豊浩GUA副社長は「各社とも狙っているところで、競争は厳しい」と話す。

 GUAはまた、米ハーレー向けのベルトドライブも手がける。二輪の車輪駆動はチェーンが主力だが、スクーターや一部の大型車では、ベルトやギアを含むシャフトドライブを用いる場合もある。また、萩原副社長は「ベルトは潤滑油がいらないため、EVバイクとの相性がよく、チェーンからの置き換えを狙う」と話す。実際、インドではEVバイク向けに採用が進んでいるという。

 椿本チエインは、自社開発の電動アシスト三輪自転車に耐久性を高めたチェーンを採用した。

 バンドー化学は、ベルトの中長期的な応用例としてeアクスルを挙げる。eアクスル内にはモーターのトルクを増大させる減速機が組み込まれている。eアクスル自体も進化途上とあって、発想しだいでは新たな動力伝達部品が組み込まれる可能性もある。植野富夫社長は「ベルトにはさまざまなメリットがあるが、信頼性ではギアやチェーンが強いと考えられている。当社としては、メーカーの設計思想や業界のトレンドを見ながら慎重に判断していく」と語る。まずは、パーソナルモビリティのeアクスル向けに開発を進める考えも示唆する。

 迎え撃つギアは加工精度をさらに高める。EVでは、より静かで耐久性の高いギアが求められるからだ。ジェイテクトは2年前、「ギアイノベーションセンター」を刈谷工場(愛知県刈谷市)内につくった。強みはギアの静粛性や耐久性を左右する歯面加工技術だ。ワーク(対象物)と工具を高速同期回転させながら溝を掘る「スカイビング加工」や、ミクロン単位の3D歯面修正加工技術を持つ。電動車シフトを背景に、あらためてギアの付加価値を高めようと意気込む。

 バンドー化学の植野社長は「ベルト、チェーン、ギアの覇権争いは過去にもあった」と話す。それぞれ最新の材料や技術を駆使し、同期性や静粛性、耐久性、コスト競争力などを高めて陣取り合戦を繰り広げてきたという。電動車シフトで部品のニーズが変わる中、水面下で再び開発競争が激しくなりそうだ。