セルビアを舞台に高品質なタイヤを製造していく
工場開設で「『転機』を掴む」と話す清水社長

 トーヨータイヤ初の欧州生産拠点となるセルビア工場が12月14日、正式開所を迎えた。同社は新拠点を足がかりに生産体制を最適化し、世界の主要市場で存在感を高める考えだ。セルビアを舞台にした世界戦略とその背景、最新鋭の製造設備に迫った。

◆手薄の欧州に生産拠点

 「世界地図を広げて当社の供給体制を考えた時、空白になるエリアが欧州だった。世界的に供給体制を地産地消に近づけるため、欧州の生産拠点が必要という判断に至った」。清水隆史社長は欧州進出の背景を振り返る。

 同社は2017年に公表した中期経営計画に「20年以降の成長を見据えた新たな生産拠点の検討」を盛り込んだ。建築用免振ゴムの性能偽装問題を踏まえ、経営基盤の立て直しに取り組んでいた一方で、ピックアップトラックやSUV用の大口径タイヤが北米を中心に売り上げを伸ばしていた。清水社長には「日米中からの生産体制では、世界の需要に追いつけなくなるのではないか」との思いがあった。

 アジアから欧米にタイヤを輸出すると輸送費がかさむ。さらに生産から海上輸送を経て現地へタイヤが着くまでに5カ月弱かかる。セルビアなら欧州に1週間ほどで送り込める。市場ニーズに沿った製品をタイムリーに供給でき、販売シェア、利益とも改善が見込める。

◆グローバルで供給体制見直し

 同社はセルビア工場の開設を機に、生産供給体制を世界規模で見直している。同工場は、来年後半に年産500万本のフル操業に移行する。このうち半数は米国に送り、米国工場を補完する。米国工場の乗用車用タイヤ生産をセルビアに移すことも視野に入れる。また、日本とマレーシアにある欧州向け生産ラインはそれぞれ現地向けとし、市場ニーズに柔軟に追随できるようにする。清水社長は「各工場の本来のキャラクターが生かされる」と話す。

 欧州市場は仏ミシュランを筆頭に多数の現地メーカーがひしめく。また、独アウトバーンに代表されるように、平均車速が速く、性能や信頼性に優れた製品が求められる。広告宣伝費を注ぎ込んでも、専門誌によるタイヤレビューがブランドの評判に直結する厳しい世界だ。この市場でシェアを獲得するため、同社は「質の高さ」と「次世代モビリティへの対応」をキーワードに挙げる。

◆質にこだわり欧州で拡販

 「方針として一番大切にしているのは質だ」。トーヨータイヤ・ホールディングス・オブ・ヨーロッパ社長の栗林健太執行役員はこう力を込める。価格より品質にこだわる欧州市場のニーズに応えられる製品を投入していく。まずは欧州向けに出荷する250万本の評判が試金石となる。

 欧州で急速に普及する電気自動車(EV)を意識した製品開発にも取り組む。EV用タイヤには、バッテリーによる車重増やモーターが生み出す大トルクへの対応、静粛性や航続距離への貢献などが求められる。グリップやウェットブレーキ性能などとともに、軽量化と転がり抵抗、安全性を高次元で両立させる必要がある。

 同社はセルビア工場に先駆け、19年にドイツで研究開発拠点を稼働させた。ここで培った材料や構造の研究成果を量産にも生かす。

 23年の社内スローガンは「転機を掴み、成長へつなげる年」だ。「転機」はセルビア工場の稼働を機に広がるビジネスチャンスと言える。5年間の中期経営計画も折り返し地点を迎える。目標とする営業利益600億円、北米販売シェア5位の実現に向け、セルビア工場が大きな役割を果たすことになる。