三菱自動車が東南アジア諸国連合(ASEAN)で展開する小型多目的車(MPV)「エクスパンダー」が、ベトナムで大きな存在感を示している。幹線から市街の道、郊外の観光地まで、エクスパンダーを見ない時間帯はないほどだ。経済発展を続けるベトナムを象徴するモデルの魅力を、記者も現地で体感した。
ベトナム中部の都市ダナン。ベトナム戦争中の1965年に米国海兵隊が最初に上陸した主要拠点だ。今や東南アジアを代表するリゾート地になった。ダナン国際空港からは、アジア各地とを結ぶ航空機が続々と発着。旅行者らの足となっているのが、配車アプリ「グラブ」を活用したタクシーサービスだ。
記者も入国手続きの際に予約したタクシーで、市街地へ向かった。やってきた車はエクスパンダーだ。3列シートの7人乗りだが、最後列の座席は収納してスーツケースを置くスペースとした。ドライバーは慣れた手つきでシートをしまい、荷物を収めていく。
この日のドライバーは、ダナン出身の30歳代の男性だ。弟とともに2人でドライバーを始めたのが2年前。「ドライバー仲間から勧められたのが、エクスパンダーだった」。4人でもゆったりと座れて、荷物もすっぽりと収められる便利さに加えて、スタート時のスムーズさが気に入っているという。
記者を乗せたエクスパンダーは、ダナン市街地を抜けて海岸沿いのホテルへ向かった。セダンのような圧迫感はなく、快適な乗り心地が印象的だ。縦横無尽に走り抜けるバイクを巧みにかわしながら、ドライバーは一定の速度で走行する。小回りの利くところも小型MPVの強みだ。
まさにベトナムの市街地にふさわしいクルマだと感じる。横をすり抜けるクルマも、同じエクスパンダーだ。車窓から見ると、コンパクトながら力強さも感じるフォルムだ。活力のみなぎる東南アジアの街に最もふさわしいクルマであると言えるだろう。
もっとも、ダナンの街路を彩るクルマは、エクスパンダーだけではない。ベトナム最大の財閥ビングループ傘下の自動車メーカー「ヴィンファスト」の小型電気自動車(EV)「VF5」も、エクスパンダーと並ぶ人気モデルだ。日本メーカーの車では、トヨタ自動車とダイハツ工業が共同開発した小型ミニバン「アバンザ」の姿も見ることができた。
ふと、記者が11年前に訪れたベトナムの首都ハノイの風景を思い出した。道路を走る乗用車の大半はセダンタイプだった。今のダナンでは、セダンタイプを探すのも一苦労なほどだ。クルマのトレンドはわずか10年で大きく変わる。
記者がかつての記憶を巡らせているうちに、クルマは脇道へ。ドライバーは路面の凹凸や水たまりをものともせず、ホテルの玄関に寄せてくれる。「車高があるので、悪い路面でも安心して走れる」。これもエクスパンダーの持つ強みだ。
エクスパンダーは三菱自のASEAN戦略車の代表格だが、狭い道路の多い日本でも運転してみたくなる、そんな気にさせてくれるクルマだった。
三菱自のベトナム事業が好調だ。2025年(1~12月)の小売販売台数は、前年比7%増の4万4107台と、2年連続で過去最高を更新。25年の車種別販売台数ランキングでは、三菱自のエクスパンダーがMPV分野で7年連続の年間1位となった。
ベトナムの自動車市場は、経済発展とともに拡大している。日本貿易振興機構(ジェトロ)は、25年の新車販売台数が前年比で2割以上増加し、初めて60万台を突破したと推計。22年以来3年ぶりに最多記録を更新した、としている。
要因の一つが旅行者の足となるタクシー需要だ。ベトナムでは鉄道網の発達が遅れている。資金不足や土地収用が難航しているからだ。
輸送の主役はあくまで自動車だ。30年までに総延長5000キロメートルを超える高速道路網の整備計画を進めている。
ハノイとホーチミンをダナン経由で結ぶ南北高速道路や沿岸道路、都市と地方の連絡道路などだ。三菱自はこうしたベトナムでの輸送網の拡大も見据えて、あらゆるニーズに対応できるモデルの投入を加速している。
(清水 直樹)





















