〈現地ルポ〉イタリアの自動車事情 「フィアット大国」に中国勢が流入 灼熱で温暖化対策は待ったなしだが…

  • クルマ文化・モータースポーツ
  • 2026年6月27日 05:00

イタリアの自動車市場は他の欧州主要国とは異なり、独特の様相を呈している。市場の大半が小型車で、日本でははるか昔に“絶滅”したクルマも現役だ。電気自動車(EV)の販売台数は欧州主要市場で最下位だという。地元のフィアットなどに混じって、コロナ禍以降は中国車の姿も目立っている。現地の街を歩き、最新動向をレポートする。

■小型ハッチバック天国

筆者は6月中旬、イタリア北部の都市ボローニャとその周辺を訪れた。駅を飛び出して市内を歩くと、小型ハッチバック車がずらりと縦列駐車している光景があちこちで見られた。

特に目立ったのが地元フィアットの「パンダ」や「500」、ランチア「イプシロン」だ。多くは2010年代の車両だったが、中には1980年代から製造されている初代パンダの姿もあった。イタリア外国自動車代理店組合(UNRAE)によると、パンダは2025年のモデル別販売台数でも首位で、16年からの10年では119万5208台を販売。他モデルと比べて突出して多く、名実ともに国民車だ。

ルノー・グループのダチア(ルーマニア)やフォルクスワーゲン・グループのセアト(スペイン)は、警察車両にも採用されていた。仏プジョー「206」や米フォード・モーター「フォーカス」といった世界ラリーで活躍した往年の小型ハッチバックも現役だった。

日本車ではスズキに存在感があった。テレビCMも積極的に打っていた「スイフト」を筆頭に、街中では「イグニス」「ビターラ」を頻繁に目撃した。日本車への信頼性も追い風に、現地の小型車需要を捉えているとみられる。トヨタ自動車も小型車「アイゴ」が多く、SUV「C-HR」や「カローラクロス」のタクシーも元気に走っていた。

経済協力開発機構(OECD)によると、24年のイタリアの平均年間賃金(ドル建て)は5万1019ドル(約820万円)。日本の4万9446ドル(約800万円)と同水準で、OECD平均の6万1147ドル(約990万円)を下回っている。小型ハッチバックがずらりと並ぶ光景は異様に思えたが、軽自動車がない代わりに廉価なA~Bセグメント車に需要が集まっていると考えると、合点がいく。

■“擬態”中国車の存在感

縦列駐車の中に、「dr」とフロントグリルに書かれた小型SUVを見つけた。記者は自称“自動車マニア”だが、聞いたこともないブランドだ。調べてみるとDRオートモービルズの「DR5」という車だと分かった。その中身は中国・奇瑞汽車(チェリー)の「Tiggo(ティゴ)4プロ」のノックダウン(KD)生産車。DRは06年に設立され、現在はチェリーのほか、安徽江淮汽車(JAC)、北京汽車(BAIC)の車両もKD生産しており、計6ブランドを展開しているようだ。その一つ、「EVO」ブランドはイタリア放送協会(RAI)でもCMを積極的に流していた。

UNRAEによると、DRの販売台数は16年時点では年間457台だったが、コロナ禍後の23年には1万5706台に急増。25年も1万218台を売り、地元ブランドのアルファロメオ(1万665台)に肉薄している。コロナ禍後の新車の供給不足も背景に成長したとみられる。

中国ブランドはこの2年で急増した。25年の販売台数は、比亜迪(BYD)が7868台(前年比4.2倍)、零跑汽車(リープモーター)は6624台(同55倍)、チェリーが展開する「オモダ」は5879台(同6.9倍)、「ジャクー」は4910台(同10.6倍)だった。値付けと、欧州車顔負けのスタイリングが支持されているとみられる。

もっともDRは24年、中国製車両をイタリア車のように消費者に誤認させたとして、当局から600万ユーロ(約11億円)の罰金を課されている。これを受けて25年7月には、国内工場への投資と300人の雇用を発表している。

■問われる気候変動対策とEVの活用

現地では気候変動への対策も急がれることを肌で感じた。何しろ、6月中旬ながら最高気温が35度前後の日々が続き、外出では日陰を選んで歩かざるを得ないほどの暑さだったからだ。レストランでは客が手持ちファンを持って食事をし、街中では車の排出ガスが熱風となって歩道に流れ込んできた。

日本貿易機構(JETRO)などによると、イタリアでの発電量の49%は水力や太陽光などの再生可能エネルギーが占めている(24年)。再エネでEVを充電して走行すれば二酸化炭素(CO2)排出量を下げられると考えられるが、25年のEV販売は9万4624台で、シェアはわずか6.2%だった(欧州自動車工業会調べ)。ドイツ(54万台超)やフランス(32万台超)とは1桁少ない数字だ。

イタリア政府も25年10月から、EVの購入補助金の支給を始めた。徐々にEVの販売台数も増えていくとみられるが、滞在期間中、公共充電器は確認できず、日本同様にインフラ整備に課題があるとみられる。ちなみにボローニャやモデナ(郊外にフェラーリが本社を構える)ではトロリーバスが移動手段として使われていた。

廉価な“アシ車”の需要が強いイタリア市場。車両平均価格が高く、使い勝手も良いとは言えないEVをどのように普及・浸透できるだろうか。温暖化対策が待ったなしであることを肌で感じた一方、日本のような潤沢な補助金がない市場で、その壁はさらに高いように思えた。

(中村 俊甫)

関連記事