〈ニュースの底流〉欧州の〝エンジン禁止〟実質撤回 道は開けたが楽観ムードとは程遠く

  • 政治・行政・自治体
  • 2025年12月19日 05:00

 欧州の〝エンジン禁止〟が実質撤回に追い込まれた。欧州連合(EU)欧州委員会は、2035年以降も内燃機関車の販売を容認する方針を発表した。欧州製の電気自動車(EV)販売が伸び悩むところへ中国製EVが流入。業績が悪化した欧州自動車・部品メーカーからの圧力が高まった。ただ、低炭素鋼やバイオ燃料の活用など、容認条件の詳細は明らかになっていない。エンジン存続の道は開けたものの、業界は楽観ムードとは程遠い。

 コロナ禍に見舞われた20年以降、欧州域内の新車生産と販売は19年以前の水準を上回ることができずにいる。域内首位のフォルクスワーゲン(VW)グループは独工場の閉鎖を検討して物議を呼び、今月にはドレスデン工場の生産終了が報じられた。サプライヤー各社も人員削減を相次ぎ発表するなど、多くの〝血〟が流れる事態となった。欧州メーカーの首脳らは欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と年明けから3回にわたって協議を重ね、緊急対策を求めていた。

 ■ゲームチェンジは実らず

 混迷の原因は大胆なEVシフトにある。21年7月、欧州委は気候変動対策と産業競争力の強化をセットにした政策パッケージを発表。「内燃機関にこれ以上、投資するつもりはない」(ステランティスのカルロス・タバレスCEO、当時)と、メーカーも開発の軸足をEVへと移した。しかし、一時は20%に迫った域内のEV比率は補助金の打ち切りなどで失速し、政策と実需の乖離(かいり)が深刻化していた。

 欧州委が16日に提案した「オートモーティブ・パッケージ」は、まずは内燃機関技術を使って自動車産業の雇用や収益を安定させつつも、長期的にはEVで〝リベンジ〟する意向が随所にみられる。まずは「Bセグメント」以下の小型車と法人車に的を絞り、それぞれ新車両規格の策定や物流事業者への導入義務化でEV普及をテコ入れする。

 電池産業にも資金を投じる。約18億 ユーロ (約3300億円)の8割以上は電池メーカーに無利子で貸し出す。今年3月に経営破たんしたスウェーデン・ノースボルトの教訓も踏まえ、欧州域内の電池サプライチェーン(調達網)整備に改めて取り組む。

 ■細部に落とし穴が…

 ただ、業界の受け止めは慎重だ。欧州自動車工業会(ACEA)は欧州委の提案を「歓迎する」としながら「細部にこそ落とし穴がある」とする声明を発表。乗用車、商用バン、大型車などで規制やEV需要刺激策を分け、実需に合ったキメ細かい対応を求めるなど注文をつけた。

 内燃機関車の容認条件となる欧州製の低炭素鋼やバイオ燃料の使用比率といった細則も現段階では分かっていない。条件適合の証明法など、手続きがより煩雑(はんざつ)化する可能性もある。「追い風」と報じられる日系メーカーも「中身を精査して影響を考えなければ一概に歓迎とは言い切れない」(関係者)のが実態のようだ。

 欧州の自動車産業政策は、野心的な「EVシフト」から現実路線に軌道修正されつつある。しかし、今なお不明な点が多い上、欧州では「国境炭素税」などの規制も控える。追加関税で締め出しを図ったはずの中国製EVの販売が衰えない中、保護主義色の濃い政策を続ければ結果的に産業競争力を弱めることは、これまでの歴史が証明している。

(中村 俊甫)

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