ショールームにお客さまが来店された時、どんな気持ちで迎えていますか。頭ではあいさつをしなくてはと分かっていても、どこか遠慮がちで小さな声になってしまったり、パソコンの画面に目を向けたままマニュアル通りの言葉を口にするだけで済ませてしまったりしていませんか。そんな姿を見ると、周囲の大人たちはつい「最近の若者は元気が足りない」「マナーがなっていない」と言いたくなってしまいます。
しかし、あなたが大きな声を出せないのは、決してやる気がないからでも、不誠実だからでもないはずです。ただ、あいさつという誰もが知っている当たり前の行為が持つ、価値の大きさにまだ気付いていないのです。
現在、自動車販売の世界では、商品の性能や価格といった目に見える機能的価値の差がほとんどなくなっています。どのメーカーのクルマも素晴らしく、スペックや価格の比較はネットでいくらでもできる時代です。だからこそ、今私たちが必死になって磨かなければならないのは、安心感や居心地の良さといった、目に見えない心の満足、すなわち情緒的価値による差別化です。お客さまがお店へ一歩を踏み入れたその瞬間に、あなたにしか生み出せない最強の情緒的価値こそが、元気なあいさつなのです。
先輩たちのような豊富な知識や、商談の交渉力を、入社して数年のあなたがすぐに身に付けるのは簡単ではありません。機能的価値の勝負では、どうしてもキャリアの壁にぶつかってしまいます。しかし、ショールームの空気を一瞬で明るくし、お客さまの緊張をほぐすような心からのあいさつに、キャリアの差なんて一切関係ありません。むしろ、経験が浅い若手だからこそ、一生懸命なあいさつは、それだけで店舗全体の印象をガラリと変える力を持っています。「このお店は活気があって気持ちがいいな」「このスタッフなら、大切なクルマの相談を任せられるかもしれない」。お客さまにそう感じていただくことは、カタログの知識を完璧に詰め込むことよりも、はるかに価値のあるあなたという情緒的価値の提供です。
あいさつを、単なる決められたルールや義務だと捉えてしまうと、どうしても行動は小さくなってしまいます。しかし、あいさつは、あなたという人間の魅力を伝え、お客さまの心を動かすための最高の営業スキルであり、あなたを守る武器です。知識不足を恐れて縮こまる必要はありません。まずはショールームの誰よりも大きな声で、笑顔のあいさつを届けることから始めてください。その大きな声のあいさつが、あなたの価値となり、目の前のお客さまとあなたをつなぐ、架け橋になるはずです。
文:株式会社プログレス 江原忠宏
〈プロフィル〉えはら・ただひろ 2006年東海大学電子情報学部卒、同年国産ディーラー入社。営業職、店長を務めるも、17年5月輸入車ディーラーに転職。入社2年目に係長昇進、3年連続で販売優秀者表彰。その後人材育成にやりがいを見出し、20年プログレス入社。「人材を『人財』に」をテーマに活動中。静岡県出身、42歳。

















