連載「銀幕の名車たち」男はつらいよ 寅次郎の青春 × シティカブリオレ 南国リゾートのイメージを高めた車

  • クルマ文化・モータースポーツ
  • 2026年5月30日 05:00

映画が観光資源となり、観光客の誘致や地域のブランディングに活用され、地域経済の活性化に効果をもたらすケースは数多くある。代表作は日本全国を舞台とした喜劇映画「男はつらいよ」シリーズだ。45作目「男はつらいよ 寅次郎の青春」は、宮崎県を主な舞台にドラマが繰り広げられる。作品は1992年12月に封切られたが、当時、宮崎県は、南国リゾートのイメージを高めることで“観光宮崎の復活”を目指していた。その状況下で制作・公開された同映画では、主人公の相手役の女性の所有車にオープンカーのホンダ「シティ・カブリオレ」を選択。同車は、快晴の海岸線の道路などをフルオープンの状態で走り、物語を進めていく。南国リゾートのドライブにふさわしい車として、ロケ地の温暖で快適な気候やハンドルを握る女性のおおらかな性格などを伝える役割も担った。

【ストーリー】

露天商の仕事で生計を立てながら全国を旅する男“フーテンの寅”こと車寅次郎(渥美清)は、宮崎県を訪れていた。彼は油津(あぶらつ、宮崎県日南市)の街で、理髪店の女主人で独身女性の富永蝶子(風吹ジュン)と知り合い、彼女の家に滞在することになる。蝶子は弟で漁師の竜介(永瀬正敏)と暮らしていた。翌日、寅次郎は蝶子の案内で観光名所の飫肥(おび)城跡に行くと、東京から高校時代の同級生の婚礼のために来ていた東京・表参道のレコード店の若い女性店員・及川泉(後藤久美子)と偶然出会う。その際に転倒して足をくじいてしまった。泉は寅次郎のおいっ子で大学生の諏訪満男(吉岡秀隆)が恋する相手。泉は寅次郎の実家である東京・柴又帝釈天参道商店街(東京都葛飾区)の団子屋に連絡する。団子屋の手伝いに来ていた満男はその知らせを聞き、母で寅次郎の妹の諏訪さくら(倍賞千恵子)にけがの様子を大げさに伝えると、喜び勇んで宮崎の病院へと向かった。満男の頭の中は、寅次郎の容態への心配ではなく、泉と会えるうれしさでいっぱいだった。寅次郎と蝶子、満男と泉の二組の恋の行方を描いた青春ドラマが展開される。

【解説】

男はつらいよは、東京の団子屋の息子が家を飛び出して露天商となり、全国を旅する物語のシリーズ。物語の主な舞台は旅先である全国の代表的な観光名所などとなり、全50作品のシリーズを通して全国47都道府県中45都道府県で撮影が行われた。45作目の寅次郎の青春は、寅次郎の故郷である東京の団子屋や、旅先の宮﨑県と岐阜県の名所が舞台となった。宮崎県では、日南市の城下町である「飫肥地区」や江戸時代からの運河と昭和初期の町並みが残る「油津地区」、日本の「渚百選」に選ばれた串間市の「石破海岸」、宮崎市の島全体が境内で縁結びの社として知られる宮崎市の「青島神社」と「宮崎空港」(現・宮崎ブーゲンビリア空港)などで撮影が行われ、岐阜県は下呂市の「下呂温泉」がロケ地となった。

宮﨑県は、1960年代から70年代前半にかけて「新婚旅行のメッカ」と呼ばれ、ピーク時の1974年には全国から年間37万組を超える新婚旅行客が訪れるほど、新婚カップルに人気の観光地となっていた。旅行先としての魅力の一つには「南国」のイメージがあったためとされる。だが、沖縄の返還や海外旅行の自由化などにより、魅力は薄れた。観光産業の衰退の危機が続く状況からの脱却に向けて、同県は南国から「南国リゾート」へのイメージの転換に挑んでいた。その取り組みの中で撮影された同作品は、宮崎県の観光産業を応援する形ともなった。

【車】

ホンダ「シティ・カブリオレ」E-FA型(1984年発売)

ホンダ「シティ・カブリオレ」は、ホンダが1984年8月1日に発売した手動開閉式のソフトトップを採用したコンパクトオープンカー。同車は、81年11月11日にFFニューコンセプトカーとして発売された背高ノッポのコンパクトカー「シティ」のシリーズに追加された1台で、発売当時、国産車唯一のオープンカーとして人気を集めた。イタリアの老舗カロッツェリアであるピニンファリーナ社がボディーの基本構造やソフトトップのスタイリング、レイアウトなどを手掛けたことも話題となった。

また、ボディーは83年11月10日に発売した高性能モデル「シティ・ターボII」」(愛称:ブルドッグ)と同じボディーを採用。前後のバンパーとブリスターフェンダーにより標準仕様のシティよりもボディーサイズは大きくなり、車両重量も100キログラム以上重くなったが、リゾート地のドライブで感じる爽快感にふさわしいスポーティーな雰囲気を持つ車となった。

搭載エンジンは、直列4気筒1.2リットルSOHCガソリンエンジン。変速機は5速手動変速機(MT)と3速自動変速機(AT)を設定し、最高出力は5速MTが67PS、3速ATが63PSだった。ボディーカラーは専用色を含む12色を用意した。同作品には、イメージカラーの白色ボディーの車が使用された。シティ・カブリオレは、86年10月のシティの全面改良に伴い、86年9月に生産を終了した。

【作品データ】

作品名:男はつらいよ 寅次郎の青春

製作年:1992年

製作国:日本

上映時間:101分

配給:松竹

ジャンル:ドラマ/人情喜劇

【スタッフ&キャスト】

監督:山田洋次

出演:渥美清、倍賞千恵子、風吹ジュン、永瀬正敏、後藤久美子、吉岡秀隆、下條正巳、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、北山雅康、笠智衆、佐藤蛾次郎、夏木マリ

(遠藤 幸宏)

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