新開発した1・2㍑3気筒Z12Eエンジン
(写真右から)四輪エンジン設計部の山田真嗣部長、同部の岡村翔さん、四輪パワートレインシステム設計部の井澤勝利部長、同部の石川広基さん、四輪ドライブトレイン設計部の藤峰卓也部長、同部の増田智久さん

 スズキは、昨年12月に発売した世界戦略車「スイフト」向けに排気量1.2㍑3気筒の新型エンジン「Z12E」を開発した。熱効率を高めることで、新興国を含めた温室効果ガス排出の削減を狙った。WLTCモードで24.5㌔㍍/㍑の燃費を実現したのは、エンジン、変速機、制御系の開発陣が一体となった努力の結果という。

 最高出力は82馬力ほどに過ぎない。しかし、試乗してみると、発進ではマイルドハイブリッドの後押しもあり、騒々しくうなることもなく2千回転ほどでスルスルと加速していく。自然とスロットルペダルから足が浮く出力特性も燃費改善にひと役買っているようだ。

 新規開発にあたり必須となったのは環境対応だ。同社が主力とするインドでは、政府主導でガソリンに20%のエタノールを混ぜた「E20」燃料の普及が進む。四輪パワートレインシステム設計部の井澤勝利部長は「Z12EもE20にほぼセッティングを変えずに対応した」と語る。

 26年以降に施行予定の欧州規制「ユーロ7」も念頭に置いた。開発時、規制の詳細は固まっていなかったが、議論の動向を見ながら出力や部品の耐久性を意識し開発を進めたという。ユーロ7は〝エンジン潰し〟と言われるほど厳しい規制だ。しかし、井澤部長は「もう一手間、二手間は必要だが、対応の見込みが立っている」と明言する。

 ここ数年、世界で電気自動車(EV)が急増し、エンジン開発を凍結する同業他社も出始めた。こうした状況下で、わざわざ新型エンジンを開発することに異論はなかったのか。四輪エンジン設計部の山田真嗣部長は「効率を上げて燃費を改善することが、(脱炭素化へ)今すぐできることだ。開発自体に反対はなかった」と話す。

 新興国でも中国勢が安価なEVで攻勢をかけ始めた。しかし、今のEVは市場の多様なニーズにすべて応じる実力はない。スズキも、30年時点のインド市場でEVとハイブリッド車(HV)4割、内燃機関車6割とする製品構成を見込む。Z12Eは熱効率こそ40%前後と世界屈指の水準とは言えないが、最高値だけなく、幅広い運転領域で熱効率を上げ、本質的な環境負荷の低減を目指した。

 「パワトレ全体でのチームワーク」。燃費と効率の改善に取り組んだ約5年間の開発を井澤部長はこう総括する。

 エンジン設計部では基本骨格から見直し、ストロークを92.8㍉㍍に伸ばした。バルブの挟み角や吸排気ポートの角度なども計算を繰り返して最適値を導いた。無段変速機(CVT)ではギアをミクロン(1千分の1㍉㍍)レベルで磨き、2ポートのオイルポンプも用いて伝達効率を従来比5.9%改善した。「いいエンジンと変速機を作ってもらった」(井澤部長)と、バトンを受けた制御部門は排ガス再循環システム(EGR)や可変バルブタイミング機構(VVT)を組み合わせ、HVも燃費向上を狙った制御とした。

 パワトレ開発陣は約3年間、1カ月に一度はテストコースに集まり、試乗を繰り返した。3気筒化による振動や異音など、実車確認を繰り返し、意見を出し合って完成度を高めた。「コストとのバランスを考えると、良いところに持ってきている」と四輪ドライブトレイン設計部の藤峰卓也部長は自負する。

 スズキは、Z12Eと関連技術をスイフトを皮切りに横展開していく考えだ。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けては、バイオガスや圧縮天然ガス(CNG)などへの対応も進めていく。EVという〝飛び道具〟も投入するが、高効率エンジンをさまざまな燃料に対応させ、脱炭素への道のりを着実に歩んでいく考えだ。

(中村 俊甫)