ホンダが電気自動車(EV)に代わる新たな成長戦略を発表した。足元で需要が好調なハイブリッド車(HV)の強化は規定路線だが、北米や中国といった主要市場での競争力強化に向け開発体制の強化を打ち出した。競争環境が激変する中、開発スピードとコストを圧縮し「チャイナスピード」に対抗する。EV戦略の軌道修正が遅きに失しただけに、改革のスピードを速めなければ四輪事業を再び成長軌道に戻すことは容易ではない。
■計画修正の兆候すでに顕在化
三部敏宏社長は、社長就任直後の2021年4月、「40年に新車販売をEVとFCVのみとする」と宣言した。50年のカーボンニュートラル実現には、40年時点での100%EV・FCV化が不可欠と判断したためだ。当時は世界的にEVシフトが加速し、自動車各社も電動化投資を競っていた。
しかし、その前提は大きく揺らいだ。EV市場では各国の補助金縮小や充電インフラ整備の遅れなどを背景に需要が鈍化。特に米国では、25年に発足したトランプ政権が環境規制見直しや追加関税を打ち出し、自動車メーカーを取り巻く環境は不透明感を増した。さらに、中国メーカーが低価格EVやソフトウエア開発力を武器に世界市場で存在感を高め、ホンダを含む日本勢の競争環境は一段と厳しさを増している。
こうした変化を受け、ホンダは中間目標としていた「30年にEV・FCV比率40%」を段階的に修正してきた。ただ、足元のEV需要減速は想定以上だった。三部社長は「40年目標は現実的ではない」とし、今回、数値目標の撤回に踏み切った。
戦略修正の兆候はすでに表れていた。25年5月にはカナダで計画していたEV・電池工場の稼働時期を約2年延期。26年3月には次世代EV「ゼロシリーズ」2車種やアキュラ「RSX」、ソニーグループとの共同出資会社ソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ1」など複数車種の開発・投入計画を見直した。
象徴的だったのがゼロシリーズの見直しだ。24年時点で開発はほぼ完了し、生産準備も進んでいたが、事業環境の悪化を受け、計画中止を決断した。26年3月期にはサプライヤー補償などを含むEV関連損失を計上し、最終損益は4239億円の赤字となった。四輪事業も1兆4111億円の営業赤字に沈んだ。EVへの先行投資が、一気に重荷へ転じた格好だ。
■次世代HVでホンダらしさ・燃費向上・コスト減
大幅な戦略修正を迫られたホンダが再建の柱に据えるのが次世代HVだ。EV需要の立ち上がりが緩やかになる中、自動車メーカーの間ではHVを電動化戦略の現実解として再評価する動きが広がっている。ホンダも27年から次世代HVを投入し、北米や日本を中心に販売を拡大する考えだ。
新型HVは燃費性能だけでなく、ホンダの強みとする走行性能も高める。システムコストを23年モデル比で3割以上低減し、収益性改善にもつなげる。米国では需要の大きいDセグメント以上の車種を29年に投入。2年以内にホンダ・アキュラの両ブランドで次世代HVモデルを展開する。国内でも「ヴェゼル」など主力車種への展開を予定する。30年時点でHVの販売台数は年間250万台となる見通しだ。
市場別では、北米で次世代HVを中心に商品力を強化する。国内では、軽自動車「N-BOX(エヌボックス)」が販売を支える一方、登録車の存在感低下が続いている。今後、登録車のラインアップを強化し、国内販売70万台規模の安定化を目指す。
新たな成長市場に位置付けるのがインドだ。ホンダは現地で二輪車で高いブランド力を持つ。所得向上に伴い二輪車から四輪車への買い替え需要拡大が見込まれており、全長4メートル以下の小型車やミッドサイズ車を投入し、四輪車の販売拡大を狙う。
■開発スピードを世界トップレベルへ
グローバルで商品投入を加速するために欠かせないのが、開発力の強化だ。中国メーカーは短期間で新型車を投入し、市場変化に即応する。三部社長は「開発手法から根本的に変えなければ戦えない」と危機感を示し、抜本的な開発改革に踏み切る。
4月1日付で四輪開発部門を本田技術研究所へ集約した。さらに開発費・開発期間・開発工数をそれぞれ半減する「トリプルハーフ」という活動を打ち出した。人工知能(AI)やデジタル技術を活用し、開発効率を抜本的に高める。この活動は、マイナーチェンジ車では26年度から、全面改良車では28年からそれぞれ開発を始めるモデルから導入する。実現すれば、「開発スピードは世界トップレベルになる」(三部社長)という。
また、中国では合弁先や現地サプライヤーとの連携を深め、開発期間短縮を進める。インドでも現地調達率を高め、現地のみで車両開発を完結できる体制を構築する方針だ。地域ごとのニーズに合わせた商品を、より低コストかつ短期間で投入できるかが成長のカギとなる。
EV市場の成長鈍化を受け、自動車業界では「マルチパスウェイ(全方位)」の電動化戦略が広がる。ホンダも理想を先行させた電動化戦略から、HVや地域戦略、開発改革を組み合わせた現実路線へ軸足を移した。
もっとも、目標修正だけで競争力が戻るわけではない。市場環境が急速に変化する中で、魅力ある商品をいかに早く投入できるか。四輪事業再建は、ホンダの開発力・商品力そのものを問う局面に入った。
(藤原 稔里)



















