ステランティスジャパン(成田仁社長、東京都港区)が、奨励金制度を見直した。同社と販売会社が定めた「協定台数」を大幅に達成すれば奨励金が従来よりも増える一方、そうではない販社は取り分が減るという「信賞必罰」の改定だ。成田社長は「頑張ってくれた販社に報いる仕組みとすることで国内の販売を復活させたい」と狙いを語る。ただ、販社は「現実的に従来以上の奨励金を得るのは難しい」との受け止めがもっぱら。温度差が出ている背景には、販社が自社登録を迫られている実情がある。
■超過ボーナスの上限アップ
同社が2026年から始めた新しい奨励金制度では、協定台数の達成率に応じて支給額が増える「ボリュームインセンティブ」の上限を25年までの120%から150%に高めた。目標を大きく上回れば、支給額が増える見込みだ。
ただ、従来通りの達成率では、減額になる車種が多い。例えばジープ「ラングラー」の主力グレードの場合、達成率100%の販社には1台当たり20万円程度の奨励金が支給されていた。新しい仕組みでは、1割ほど支給額が減る。
新車販売における販売店の利益は、基本的に仕入れ額と売価の差で生じる。奨励金はもともと、ボーナスの位置付けだ。しかし、円安や原材料価格の高騰などで新車の値上げに迫られ、拡販することが難しくなっている。仕入れ値も上昇する中で、販売店は競合車と競るために値引きする必要もあり、利幅が一段と圧縮。販社の経営上、奨励金が重要な収益源になっているのが実態だ。
■ジープの自社登録比率が4割になることも
もっとも、「奨励金を合算しても新車販売のみでは赤字だ」と訴える販社も少なくない。利益がマイナスとなる理由は大幅な値引きで受注を獲得していることに加え、販社が自らの名義で新車を登録する「自社登録」が業界水準以上に増えているためだ。ステランティスジャパンが取り扱うブランドによって異なるものの、主力のジープの場合、25年の後半は全国平均で4割近い水準に達していたという。
販売店も試乗車やデモカーを用意する必要があるため、一定程度の自社登録が発生する。しかし、「一般的には新車の販売台数のうち、最大でも1割程度では」と指摘する流通関係者もいる中で、ジープ勢はかなり多めだ。自社登録した車両は認定中古車として新たな顧客を探すとみられるが、割安なため、新車同然でも利益を稼げない。
加えて、こうした車両が増えれば増えるほど価値が目減りし、中古車の相場を押し下げる圧力が高まる。こうなると、将来の再販価値も低下していくため、新車販売にも響くという悪循環となる懸念が生じる。何より、目先では新車の実績が高まるものの、中長期的にはブランド価値の低下を招きかねない。
こうした状況にあることから、東日本のある系列販社の責任者は、「達成率の上限が高まっても、これまでより高い目標をクリアできる可能性はほとんどない」と指摘する。
■“退場ルール”の回避狙い
ただ、赤字を覚悟して、自社登録をする販社もいる。その理由の一つには、販社とインポーターとの約束事がある。
同社に限らず、メーカーやインポーターと、販社の間には協定台数や「割り当て台数」と呼ばれる、一定の期間に販売しなければならない台数の基準がある。運用方法はそれぞれ異なるものの、この協定台数を大幅に下回ったり、改善がみられなかったりする場合は、正規販売店としての契約が更新されないケースもある。これは、一部で「退場ルール」と呼ぶこともある。
ステランティスジャパンの場合、契約更新に関わるルールは、大きく2つある。1つは全国の販社の「平均協定台数達成率」の75%を下回った場合だ。仮に、全国の協定台数が5000台、実績がその80%の4000台だった場合、平均達成率(80%)の75%の水準に当たる60%が退場ルールに抵触するラインになる。これは3カ月ごとに評価され、2回連続で下回った場合、販売店の契約が更新されなくなる。
もう1つは、自社に課された協定台数の達成率が年間で75%を下回った場合。これは一度でも未達になると、契約を更新できない。
■販売台数は3年で4割以上の減少
数年前までこのルールは、系列販社にとって大きな関心事ではなかった。ジープを中心に、ステランティスの各ブランドの販売が好調だったためだ。同社の販売台数は2010年代後半から増加が目立ち、21年に4万4974台と過去最高を記録した。
しかし、22年に風向きが変わった。円安や原材料高騰を理由に多くのモデルで値上げを実施。ジープの売れ筋であるラングラーのエントリー価格は、現行型を発売した18年の450万円から現在は800万円台と、ほぼ倍増した。
ステランティスの取り扱いブランドは、もともと高級路線ではなく「ニッチブランド」(成田社長)であり、人とは異なる車を欲するユーザーに好まれる傾向がある。金銭的な余力に限りがある若年層にも多いとみられ、値上げによる客離れが想定以上に大きく、24年と25年は約2万5000台と低迷した。
こうした中でも、協定台数は「ほとんど下がっていない」(関東の販社社長)、「ほぼ変わっていない」(中部圏の販社首脳)という。結果的に、各販社は契約更新のために、一定規模の自社登録を迫られることになっている。
■販社からは強い商品を求める声
中長期的に、ブランド価値の毀損(きそん)につながる自社登録の増加は、ステランティスジャパンも問題意識を持っている。このため、同社は今回の奨励金制度の改定で、自社登録を抑制する仕組みも取り入れた。
デモカーや試乗車の導入促進を目的に、「6カ月に1度」かつ「1モデルにつき1度」まで、自社登録した車に対して一定の資金補助を行っている。ただ、この仕組みが自社登録の促進につながる側面もあると判断し、期間を「10カ月に1度」に延長した。
販社の新車収益にかかわる仕組みを見直すのは、同社だけではない。ホンダは27年度から販社のマージンを平均2割減らす改定を行う。トヨタ自動車もモデルサイクルが長期化していることに伴い、マージンの仕組みを見直す。必ずしも販社の利益が目減りする改定ではないが、販社にも従来以上の販売努力を求める。
足元の状況や奨励金制度の改定について、「ステランティスジャパンも本国の意向を踏まえて厳しい施策を打たざるを得ない部分もあるのだろう」(西日本の販社社長)と理解を示すところもある。それでも、「今のままでは持続可能ではない」(同)と警鐘を鳴らす。
ただ、かつてのように全体的にボリュームが増えれば、解決する問題も多い。ある系列販社のトップは「日本で売れる新商品があれば、状況は変わる」とみている。メーカーに働き掛けて、いかに商品力や価格競争力が高いモデルを調達できるか、インポーターとしての「供給責任」がこれまで以上に重くなっている。また、販社にも1台でも多く顧客に届ける「市場責任」がより求められることになりそうだ。
(水鳥 友哉)



















