連載「次章~マルチ・スズキの正念場~」(1)異次元の生産 400万台体制へ立ちはだかる高い壁

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  • 2026年4月6日 05:00

インドの首都デリーから南西に約1000キロメートル離れたグジャラート州。農地や草原が広がる大地に白く大きな建物が突如、姿を現す。9月までに100万台へ生産規模を拡大し、スズキ最大の生産拠点となるマルチ・スズキ・インディアのハンサルプール工場だ。同社はインドにおける生産台数を年400万台に引き上げる構想を持つ。人口14億人超の巨大市場で大規模な生産体制構築を目指すが、前人未到の挑戦には高い壁が立ちはだかる。

■2030年度に600万台想定、シェア5割獲得へ

1980年代にインドに進出したスズキ。小型車を強みにトップシェアを維持してきたが、近年は勢いが減速気味だ。現地で人気のSUVで、タタ・モーターズやマヒンドラ&マヒンドラなどに売り負けている。韓国のヒョンデや起亜、日本勢ではトヨタ自動車も台数を伸ばしている。スズキもラインアップを拡充し、シェア5割の獲得を目指すが、その達成には400万台規模の生産体制構築が欠かせない。

スズキは2030年度にインド市場が600万台規模に成長するとみる。現在の生産体制は260万台。これを400万台までに引き上げ、300万台をインド国内で売ることで市場の半数を獲得し、残りの100万台を輸出に振り分ける青写真を描く。

■1カ国で400万台生産、「未知の世界」

ハリヤナ州とグジャラート州では生産能力増強に向けて工場建設を急ぐ。ハリヤナ州では25年に稼働したカルコダ工場(年産能力25万台)を増強し、最大100万台体制とする。グジャラート州ではハンサルプール工場で26年7~9月期に新ライン(同25万台)が稼働し年産100万台体制となる。電気自動車(EV)専用ラインとする。同州サナンドには最大100万台の生産能力を持つ新工場を建設する予定だ。第1ライン(同25万台)は29年までに稼働する計画。これらが現在の年産260万台に上積みされる。

1カ国で400万台超の生産能力を備える自動車メーカーは多くない。鈴木俊宏社長は「未知の世界だ。100万台、400万台とスズキが経験したことのない壁が迫ってきている」と話す。

■グローバル品質実現へ、仕入先品質や人材育成に課題

ただ、当初計画の前提は揺らぎ始めている。マルチ・スズキの竹内寿志社長は400万台の達成について、「精査すると、なかなか難しく見直しをかけている。(市場を)若干スローでみている」と話す。インド経済の成長ペースなど不透明な要素も多く、400万台の実現は30年度以降にずれ込む見通しだ。

加えて課題となるのが、人材育成とサプライヤーの対応力だ。工場運営を担う従業員や幹部の育成に加え、仕入れ先が品質を維持したまま400万台に対応できるかが問われる。マルチ・スズキの山口一成取締役は「『サプライヤーの(部品の)精度は』と言われると、はてなマーク(?)が多い」と明かす。

インド生産車は日本市場への導入も広がっているが、輸出向け車両の増加に伴い求められる品質水準も一段と高まっている。鈴木社長はインドでのグローバル品質実現に向け「仕入れ先を含めレベルアップするように」と号令をかけ、品質基盤の底上げを急ぐ。

インドの自動車産業の近代化をけん引し、網目のような販売網で「モータリゼーション」をもたらしたスズキだが、成長し続ける市場でその将来は盤石ではない。インド市場における巨人であり続けるためには、400万台体制の早期確立が欠かせない。世界3位の自動車市場での拡販に競合他社が目を光らせる中、現地取材からスズキの「次の一手」を探った。

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