〈ニュースの底流〉先端半導体 どうなる 悲願の国内生産

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  • 2025年11月28日 05:00

 先端ロジック半導体の国内生産を目指すラピダス(小池淳義社長兼CEO、東京都千代田区)の資金調達が一歩前進した。経済産業省が独立行政法人「情報処理推進機構」を通じ1千億円の出資を決めた。経産省としては、2026~27年度に出資や研究開発の委託費として1兆円以上を支援し、さらに債務保証を通じて民間から2兆円の融資を引き出す考え。今後の焦点はユーザー企業でもある民間からの出資に移る。有力視されている自動車関連企業からは戸惑いの声も漏れる。

 「(政府の出資決定は)現在取り組んでいる民間からの資金調達とともに、27年に計画している2ナノメートル(ナノは10億分の1)世代のロジック半導体の量産開始に必要な資金調達プロセスの第一歩となる」。―ラピダスの小池社長兼CEOは政府と民間による資金調達計画が前進したことに安堵する声明を出した。

 回路線幅が2ナノメートル世代の先端ロジック半導体を国内で生産するため、22年8月に設立されたラピダスは北海道千歳市に生産拠点を整備し、今年4月には計画通り試作品の製造に成功した。現在は27年の量産開始に向け、準備を進めている。最大の経営課題が設備投資と研究開発のための資金の確保だ。

 先端半導体は人工知能(AI)や自動運転車などに不可欠な戦略物資だが、日本では現在、生産されていない。経済安全保障の観点からも、政府はトヨタ自動車やNTTなどといったユーザー企業とともに、ラピダスを資金面で支える戦略を描く。

 これまでに、研究開発の委託費として約1兆7千億円の支援を決め、今回は1千億円の出資を決定。研究開発委託費として26年度に6300億円、27年度に3千億円程度それぞれ支援するほか、26年度に1500億円程度の追加出資も予定。さらに政府の債務保証を通じ、2兆円超の民間資金を引き出す考えだ。

 先端半導体のユーザー企業などから25年度に1300億円の出資を見込むほか、31年度までに1兆円規模の民間出資の確保を目指している。これら政府、民間出資・融資などで、31年度までに必要と見積もる7兆円超の資金を手当てする計画だ。

 赤澤亮正経済産業大臣は「国益のために必ず成功させなければならない国家的プロジェクトで、成功に向けて全力で取り組む」と、ラピダスを資金面で全面支援する姿勢を示す。ラピダスは27年後半に2ナノ世代を量産した2~3年後には1.4ナノ世代、さらに1.0ナノ世代の量産を目指す。これによって29年度頃に営業キャッシュフローを黒字化し、31年度頃の株式上場を目指す。

 しかし、強力なライバルもいる。半導体受託製造最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、2ナノ世代の量産を11月からすでに始めた。28年には1.4ナノ世代を量産する。サムスン電子も25年中に2ナノ世代を量産する計画を打ち出す。

 民間出資者、さらには納入先としてもラピダスが期待している国内の自動車業界は微妙な立場に置かれている。ハンズオフ(手放し)が可能な自動運転「レベル2+(プラス)」に必要とされる7ナノ世代や5ナノ世代のロジック半導体はすでにTSMCが製造する。TSMCは「レベル4(特定条件下における完全自動運転)」向けの4ナノ世代、3ナノ世代の車載グレードも開発中で、26年には市場投入する見込み。

 国内自動車メーカーのある幹部は「経済安全保障の観点から先端半導体の国内生産が重要なのは理解しているが、自動運転車の普及ペースから見て必要な量は調達できる。ラピダスに出資する意義は感じない」と、前のめりな政府と裏腹に冷ややかだ。

 ラピダスには設立時、トヨタ自動車とデンソーが出資した。25年度の民間出資(1300億円)でも両社は追加出資に応じる見通し。ただ、他の自動車・部品メーカーは、ラピダス製半導体を一定量、使用する予定がなければ出資は難しいとみられる。

 7兆円もの資金を集め、先端半導体で高い収益を確保し、日本の半導体産業を復活させる壮大な計画を一歩前進させたラピダス。しかし、先端半導体の国内需要を十分に創出しなければ、壮大な計画も絵に描いた餅になりかねない。政府、ラピダス、需要家で、これまで以上に戦略をすり合わせることが不可欠といえそうだ。

(編集委員・野元政宏)

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