連載「旧車リポート」(5)ポルシェ「911カレラRS2.7」(1973年式) 街乗りとレース車並みの性能を両立

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  • 2025年8月20日 05:00

 ポルシェのファンのみならず、多くのスポーツカー愛好家が憧れる一台が1973年式の「911カレラRS2.7」だ。日本では通称「ナナサンカレラ」と呼ばれるモデルで、独特のリアスポイラーを備えるリアデザインから「ダックテイル」(アヒルのしっぽ)という愛称でも知られている。

 カレラRSは72年10月のパリ・モーターショーで発表された。当初はツーリングカーレースの「グループ4」のホモロゲーション(モータースポーツ参戦に必要な認証)を得るため500台の生産が予定されていた。しかし、街乗りでの扱いやすさと、レーシングカーに匹敵する走行性能を両立したスペックが人気を博し、最終的な生産台数は計画の3倍超となる1580台に膨らんだ。その内訳は一般走行も重視した「ツーリング」が1308台、軽量化パッケージを装備した「スポーツ」が200台、競技用の「レーシング」が55台、競技用ベース車両が17台だ。

 スポーツの車両重量はツーリングと比べ115キログラムも軽い960キログラム。リアシートやカーペット、時計、アームレストなどをなくし、オーナーが希望すればスポーツシートの代わりにシートシェル(クッションなどのない〝骨格〟だけのシート)を装着するなど、軽量化を徹底した。さらにレース仕様は、屋根の鉄板や窓ガラスをギリギリまで薄くし、樹脂パーツの多用、断熱材の省略などによって車重を900キログラム未満まで減らした。

 ドイツ国内の車両基本価格は3万4千マルク(73年1月当時の為替換算で約320万円)で、ツーリングには2500マルク、スポーツには700マルクのパッケージ料金がそれぞれ上乗せされた。

 エンジンは、ノーマルの911よりも排気量が0.3リットル大きい2.7リットルの水平対向6気筒エンジンで、燃料噴射装置を備える。最高出力は210PS/毎分6300回転、最大トルクは255ニュートンメートル/同5100回転。スポーツは軽量な車体と高出力エンジンの相乗効果によって、発進から時速100キロメートルまでの加速時間(0―100加速)が5.8秒を記録。ドイツの自動車専門誌「アウト・モーター・ウント・スポルト」が〝速いクルマ〟の基準として設定した「0―100加速6秒」の壁を初めて打ち破った量産モデルとなった。最高時速はスポーツが245キロメートル、ツーリングが240キロメートルだ。

 空力性能の改善もカレラRSの走行性能に一役買った。ポルシェの市販車として初めてフロント、リアのスポイラーを標準化し、高速走行時の前後リフトを抑え、ニュートラルなハンドリングにつなげた。特にダックテールのリアスポイラーは、ダウンフォースの発生のみならず、リアに搭載する空冷エンジンへの冷却気導入、さらに最高速度の向上にも効果をもたらした。

 一般的にリアスポイラーでダウンフォースを稼ぐと最高速度が犠牲になりがち。しかし、開発陣は風洞実験を徹底して、スポイラーを高くすると空気抵抗が減少し、最高速度が上がることをつかんだ。そして「金属板を使ってスポイラー後端の高さをミリ単位で調整し、空気抵抗が再び増加し始める〝逆転点〟を見つけるまで試行錯誤を繰り返した」(当時の量産車の開発責任者、ペーター・ファルク氏)と、コンピューターシミュレーションがなかった時代の苦労を語った。その努力の結果、最高時速が4.5キロメートル向上した。

 タイヤは、同社の量産車では初めて前後輪に異なるサイズを採用。後輪をワイドタイヤにして駆動力とハンドリングの改善を図った。太い後輪を収めるため、車体は42ミリメートル拡幅された。ここで得た成果を基に、その後の911シリーズは、後輪タイヤをワイド化するセッティングとなった。

 そしてカレラRSをベースに開発されたレースカー「911カレラRSR」は73年に国際選手権で3勝、ドイツ国内選手権で7勝を挙げ、現在も高性能スポーツ車として高い評価が続く911シリーズの礎を築いた。

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