連載「旧車リポート」(2)マセラティ「ギブリ」 受け継がれる発想の原点 GTの〝熱い風〟

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  • 2025年5月21日 05:00

 マセラティの2ドアクーペ「ギブリ」は1966年11月、伊トリノ・モーターショーで世界初公開された。そのデザインは当時、カロッツェリア(車両のデザインや生産を受託する架装メーカー)のギアに在籍していたジョルジェット・ジウジアーロ氏が担当し、グランツーリスモ(GT)の新たな方向性を打ち出した。

 〝ギブリ〟とは、北アフリカで吹く「熱くて強い風」のこと。この名前が選ばれたのは偶然ではなく、車のスピードと技術、スタイリッシュな〝熱さ〟を表現したものだという。

 エンジンは新設計で、スポーツカー「メキシコ」に搭載したV型8気筒エンジンのノウハウを生かして開発された。初期モデルが搭載した排気量4700ccのバージョンは最高出力が330馬力。後に、よりパワフルな排気量4900ccバージョンも投入された。

 ボンネットの高さを下げてスポーティーな雰囲気を高めるため、エンジンオイルの潤滑にはレースカーと同じドライサンプ方式が採用された。チューブラー(丸鋼管)製のラダー(はしご型)フレームの非常に低い位置に搭載された。こうした特徴的な設計によって、ギブリは力強くスリムな外観を実現し、デザインで高い評価を集めた。

 ギブリのデザイン面の進化を示す重要なキーワードは「ボリュームの一体化」。これを基に、車体とキャビン(乗員スペース)の区別がなく、一つの面として融合されたデザインを完成させた。ラインは幾何学的で張りを持ちながら、その硬さがジウジアーロの手によって巧みに和らげられた。

 スタイリングで最も目を引くのはフロントマスクで、これはマセラティにとっても革新的なデザインとなった。ヘッドライトをリトラクタブル(格納)式としたことで、フロントグリルが非常にスリムになった。「トライデント」(海の神ネプチューンの三叉の槍)のブランドロゴは中央に残されたが、従来車よりも小さくなった。

 サイドビュー(車体側面)は、ギブリのスレンダーなラインが際立つ。長く低いボンネット、強く傾斜したフロントガラスなどで無駄な装飾のない完璧なプロポーションに仕上がった。三角形のリアピラーは独自の個性を持ち、後のマセラティのヒット車に受け継がれる象徴的なデザインアイコンとなった。

 内装では、計器類を従来車のように個々のパーツとして扱わず、インテリア全体のデザインに組み込み、統一感のある空間を生み出した。その結果、マセラティが常に取り組んできたクルマづくり「エレガントでラグジュアリーなスタイル」「ハイパフォーマンス」「快適性」に、「レーシングスピリット」が加味されたGTが誕生した。

 市販は67年に開始。変速機は5速手動変速機を基本に、自動変速機も用意された。

 1969年からはスパイダーモデル(フロントウインドーが低いオープンカー)も登場。ハードトップの装着が可能だった。

 70年には排気量4900ccエンジンを搭載した上級バージョン「ギブリSS」が追加された。

 生産は72年に終了。累計生産はスパイダーが128台、クーペは1200台以上となった。そのうちの1台はフォード・モーター創業者の孫、ヘンリー・フォード2世が購入し、米デトロイトのフォード製品開発センターのロビーに展示された。これは「模範とすべき存在」「インスピレーションの源」として、開発陣に刺激を与えるため展示したそうだ。

 ギブリは象徴的なモデルとして、その発想の原点がマセラティの歴代モデルに脈々と受け継がれている。そして2013年には「ギブリ」の名を冠したスポーツセダンを新たに投入した。

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