連載「クロスオーバー サプライヤーの挑戦」アイシン×理美容・健康 世界最小サイズの無帯電水粒子を開発

 eアクスルをはじめとする電動化部品の開発に力を入れるメガサプライヤーのアイシン。前身である愛知工業時代に家庭用ミシンの生産を始め、「アイシン精機」時代の1966年には「トヨタベッド」のブランドでベッド事業を立ち上げるなど、これまで自動車部品以外にもさまざまな製品を手がけてきた。構造改革でミシンやベッド事業からは手を引いたが、誰もが健康で快適に過ごせるよう、さまざまな社会課題を解決しようとする姿勢は、新生「アイシン」にも引き継がれている。

 ナノサイズの超微細水粒子「AIR(アイル)」は、目に見えない世界最小サイズの無帯電水粒子だ。排ガス中の不純物処理に用いるカートリッジ技術のほか、ベッド事業で培った良質な睡眠に必要な温度や湿度に関するノウハウを生かして生成技術を開発した。一般的なスチーム(水蒸気)の大きさは千ナノメートル(ナノは10億分の1)以上あるが、アイルの粒径はスチーム粒子の約600分の1となる2ナノメートル以下だ。肌の隙間より小さく、水分が角質層まで浸透するという。安定した構造を持つため蒸発もしにくく、保湿効果が持続する。6月には皮膚への浸透メカニズムの研究成果とアトピー性皮膚炎への効果が日本皮膚科学会で発表された。

 この技術を頭髪ケア用の理容機器に搭載した「ハイドレイド」は、都内の美容院を中心に36店舗で導入されている。イノベーションセンターAIRビジネス推進室の土井久明ビジネス推進グループ長は「髪に水分が浸透することでツヤが増したり、カラーリングの持ちがよくなったりする」と説明する。空気中の水分を水粒子にして放出するため給水タンクが要らず、メンテナンスも容易だ。美容院側も人手をかけずにサービスの付加価値を向上させ、客単価を上げられる利点がある。

 保湿効果を生かした肌用の美容機器「ウィンセル」も商品化し、美容クリニックなどで導入が始まった。PRには「口コミが大事」(土井氏)として、地道な営業活動に加え、SNS(交流サイト)やオンラインの「応援購入」サービスを使った話題づくりにも力を入れている。

 今後は、食品や医療など、幅広い分野での超微細水粒子の活用を見込む。たとえば水分を食品の内部まで行き渡らせることで鮮度維持につなげたり、発酵食品の菌の活性を上げ、短時間で有用成分を増やすなどの用途が考えられるという。ほかにも農業分野で作物の生長を促したり、医療分野で薬剤の浸透効果を高め、途上国などで注射針を使わない衛生的な治療につながるなどの可能性を秘める。工業分野では、基材と塗料の反応性を高めて塗装を長持ちさせるといった自動車事業への応用も期待されるという。

 活用の幅を広げるため、「オープンイノベーションでいろいろな会社と話をさせていただいている」と土井氏は話す。身近な「水」を最小サイズにすることで用途を広げ、さまざまな社会課題を解決していく考えだ。

(堀 友香)

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