丸幸自動車工業(阿部裕一社長、仙台市宮城野区)は、東日本大震災の翌年の2012年から地元の仙台市立仙台工業高校の生徒らを対象にしたインターンシップを受け入れている。就業体験ができる場を提供することで、地域に貢献していく狙いだ。
同社は「社会のお役に立ちながら、事業の進展を図る」を経営理念に掲げている。ただ、震災では被災し、さまざまな人たちから支援を受けたという。当時、社長だった阿部修会長は「地域社会に恩返しをしたい」と考えていたところ、同社が加盟している仙台自動車整備工業団地協同組合を通じ、同校が震災の影響でインターンシップ先が減り困っている状況を知った。そこで、協力することを決めた。主に機械科の生徒を受け入れている。2年生は5日間、3年生は10日間で小型車や大型トラック、クレーンの整備、板金など幅広く仕事を体験できる内容に工夫している。
また、阿部社長は「インターンシップの利点は、生徒自身が就職の意思を確認でき、採用のミスマッチを防げること」と指摘する。同社では、入社後に整備士や検査員の資格試験に挑戦して合格した場合、費用を全額会社が負担する制度を設けており、インターンシップをきっかけにした採用にも結び付けている。
2年生向けに実施している初日の座学では、阿部社長自らが講師役を務め、コミュニケーションの心構え、あいさつと返事、報告や連絡の仕方などのビジネスマナーを教えている。社会人となって就職した先で上司や先輩から仕事や技術を教わる際、マナーが重要になってくると考えるからだ。社会に出るまでの〝架け橋〟役としての気持ちを込めた研修は、生徒からも「非常にためになった」という感想が多く聞かれる。
独自のインターンシップを続けられる要因について、阿部社長は「社員のみんなの理解と協力があるからこそ」と強調する。受け入れは毎年盆休み明けの忙しい時期に当たるが、会社全体で温かく生徒を迎えるように配慮している。さらに、実際に指導を行う整備士一人ひとりも「自分の教え方次第で就職してくれるかもしれない」との気持ちを持っており、高いモチベーションにつながっている。
同社ではインターンシップの受け入れを今後も続けながら、継続的な整備人材の採用、育成、雇用の実現を目指していく考えだ。
〈阿部裕一社長コメント〉
インターンシップを13年間続けることができたのは、社員の理解と協力のおかげと感謝している。これまで延べ48人の生徒に自動車整備を体験してもらった。震災をきっかけに、地域社会に恩返しする意味で始めた活動だったが、当初は整備の人材不足がこれほど深刻になるとは思っていなかった。これからも需要がある限り、社員と一丸となって継続して取り組んでいきたい。
(東北支社・菊地 孝作)